チャーター・スクール運動のインパクトとその評価に関する一考察
−連邦教育省の最近の調査報告書を中心に−

湘南教育文化研究所  菊地 英昭 

1.研究の視点と主題設定の理由
本研究は、近年、アメリカの教育改革の大きなうねりを形成している流れ−学校選択(school choice)の自由化、及び学校経営の民営化( privatization ) という二つの大きな学校改革論研究の一環として、チャーター・スクール運動を取り上げ、既存の公教育制度の中でそれはどのように受け止められ、どんな役割を果たしているかについて考察する。
わが子にあった公立学校を父母が自らの責任で選択できる制度は、わが国でもようやく東京都の一部の自治体で導入されたばかりであり、ましてや、父母や教師が自らの力で理想の教育理念のもとに新しい公立学校を創り、生徒を集め、自分たちで学校を経営していこうという発想(いわゆる学校経営の民営化)は、日本ではその是非を巡って論争中であり、一部の地域でその動きはあるにせよ、現在のところ制度化の見通しはない。公的資金で、義務教育学校の運営を民間の市場競争に任せるという発想は、「余りにもリスクが大きすぎる」「日本の教育の土壌になじまない」「誰が、誰に、どう責任をとるのか曖昧」等の見方が強い。
筆者はこの二つのテーマをアメリカの教育改革との関連で、この運動が始まった1970年以来一貫して追跡し、その可能性と限界を考えてきた。アメリカでは、今からちょうど10年前、ミネソタ州議会で全米初の「チャーター・スクール法」が成立し、以来今日(2001年)まで37州(およびワシントンD.C)で成立し、そこでは既存の公立学校と共存(共生)し、競合し、さらに適応できない学校が閉校にお追い込まれるという事態にまで発展している。
そこで、本研究では、最近連邦教育省が後援した二つの報告書を中心に、この運動が地方学区当局にどんなインパクトを与え、他の公立学校の経営にどのような影響を与えているかに焦点を当てて、チャーター・スクール運動の最近の動向と問題点を考察してみたい。
 参考までに、このテーマに関する筆者自身の研究はつぎの通りである。
(1)「ハイスクールの特色化を目指すオールタナティブ教育―教育の自由選択を中心にして」
    現代アメリカ教育研究会編 「特色を求めるアメリカ教育の挑戦」教育開発研究所 1990
(2)チャーター・スクール運動の動向と意義についてー各州制度を中心にー:日本教育制度学会(帝京大学1998
(3)チャーター・スクールの動向―アカウンタビリティーの観点からー日本比較教育学会(東北大学) 1999
(4)チャータースクールにおける民営化の問題  日本比較教育学会(早稲田大学) 2000
(3)の論文及び、連邦教育省の「全米チャーター・スクール研究」(NSCS)、第三次、第4次報
告書の一部の抄訳は、湘南教育文化研究所のホームページを参照されたい。  
http://www.shj.or.jp/seclabo/
2.チャーター・スクール運動の理念と最近の動向
チャーター・スクール(以下[CS]と略す)は、アメリカの公教育史上画期的な公立学校改革論であり、父母、教師、教育当局、国民の世論に投げかけたインパクトは実に大きい。その基本理念は、一般に(1)公立学校の自由選択(choice)(2)学校経営の自主決定権(autonomy)(3)説明責任(accountability)の3点に求められるが、1990年代に起こったチャーター・スクール運動の最大の意義は、(1)〜(3)のコンセプトを共通の機軸として、各州独自に「CS法」を制定し、伝統的な公立学校システムと共存するようになったことである。異質な二つの学校経営方式が共存し、両者が共に切磋琢磨して競合し、全体としての教育水準をたかめることが各州教育当局は企図している。CER(教育改革センター)の報告に寄れば、現在のところ、全米で37州とワシントンD.C.がCS法を成立させ、2001年6月の時点で、34州でのCSの数は2000校を突破し、約51万9000人の児童生徒が新しいスタイルの学校に学んでいるといわれている(表1参照)。
この動向を、歴史的視点で位置づけてみると、@については、既に1970年代の公立オルタナティブ・スクール運動があり、パブリックセクターの中で、親がわが子のニーズにあった学校を選択できるシステムが様々に模索され、開発されてきた時代がCSの前史として位置づけられよう。アメリカ社会の人種問題の新しい展開を反映して起こったマグネット・スクール、学校内学校などの公立オルタナティブ・スクールはまさにその典型であり、各州の大都市を中心に確実に増大化した(宗教系私立学校その他の独立の私学にも対象を拡大したバウチャー制度や奨学金制度、課税免除などの自由選択制度はここでは触れない)。Aについては、やはり70年代に、民間企業が特定の公立学校または学区教育委員会と契約して、教育成果を上げるという方式が脚光を浴びた時期があった。いわゆる、学校の民営化(privatization)である。Bのアカウンタビリティーを求める運動は、Aの動きと同様、本来教育以外の分野―経済政策における自由な競争と投資効果、あるいは医療におけるインフォームド・コンセントの問題―からの理念であり、それが今日の教育問題の解決に極めて有効な光を当てているということである。すなわち、人々が自由な発想で、自由に学校を創り、子どもたちを自由に教育する機会を保証するが、国民の税金を財源とする以上、一定の教育成果を示すことができない場合、当初の契約に従って、契約を破棄し学校を閉鎖しなければならないという極めて明快な論理である。
CSは、学校経営を非営利の民間教育団体(個人)や企業に委託し、契約書(チャーター)に従って、教育当局が管理・査定するというシステムであるともいえよう。このCS方式の底流をなす3つの理念は、他の公立学校との競合と共生の道を探りつつ、今後益々アメリカの公教育全体に抜本的な改革を迫っていくだろうことは確かであるといえよう。

最近の動向
セントポール市(ミネソタ)にCSが最初に登場して、今日(2001)まで10年の月日が経った。CSに学ぶ生徒数は、全米約8万の公立学校就学者数のたった3%に過ぎないが、その運動が公立学校全体に及ぼすインパクトは実に大きい。その急速な進展に伴い、人々の関心も高まり、その実態や特性を考察した本格的論文、実証的調査研究報告書、新聞記事、その他の文献の数は夥しい。とりわけ、インターネットを利用したホームページが急速に普及し、最近数年間でも、政府系各種研究機関、大学、教育団体、教員組合さらに全国レベルのシンクタンク、連邦政府諸機関、財団その他の研究所など、その数は枚挙に暇がないほど、膨大である。 このようなCS論議のなかで、CSは実際にどんなインパクトを他の公立学校に及ぼしているのかを考えるのが本稿の目的である。

3.チャーター・スクールのインパクト−“さざ波効果”(Ripple Effect)の実相−
     
http://edreform.com/press/2001/edstudy.htm参照
(1)さざ波効果とは何か
池に小石を落としたとき“さざ波”が起きるように、CSがある学区内に開校すると、それが起爆剤となって他の公立学校に次々と波紋が広がって、自然に改革(革新)が他に波及するという考え方がある。まさにアメリカにおけるCS運動は、このさざ波が湖面に静かにに広がるように大きなうねりを形成し、今や、CS以外の他の公立学校の経営にも抜本的な改革を迫るまでのインパクトを持ち、全米各地の公立学校の一部門として“市民権”を得たと言っても過言ではない。
最近,CERが公刊した諸文献の調査分析(What the Research Reveals about Charter Schools: Summery of Studies , August 2001 )は注目に値する。本書は全米のCSに関する様々な文献を精査し、65点の代表的な実証研究報告書を精選・分析した報告書である。その序言で、「(大部分の諸文献―61点―の一致した結論は)CSは革新的で説明責任に富み、成功して(innovative ,accountable , and successful )おり、CSで学ぶ子どもたちにとっては(学習の)チャンスを創出し、その管轄区内の既存の公立学校には、一種の“さざ波効果(ripple effect)”を醸成していると言明している。
 確かに、“さざ波効果”という概念が最近のCS関係の文献に散見されるが、CS推進論者の次の指摘は極めて示唆に富む。「小石を投げてさざ波がたつのはその水が液体の場合であって、それが氷だったらどうなのか?」チャーター方式による新しい学校が出来ることによって、近隣の伝統的な公立学校も改善を迫られ、全体として教育改革のボトムアップが図られるというのはいささか楽観的すぎる見方ではなかろうかという批判をそこに読みとることが出来る。
その当否はともあれ、CERの上記65点のなかで最新の調査報告書として、実は連邦教育省が委託した二つの報告書がそのトップにあげられている。CERのJoanne Allenはその知見を高く評価し、「両報告書はCERの独自調査の知見を裏付けるもので、CSはすべての子どもたちの教育に望ましい効果をもたらしている」とし、特に次の2点を評価する。「第一に、CSの出現によって、学区当局に対する予算(の減少化)というネガティブなインパクトの結果として、その属する学区は重い腰をあげて、新しい教育プログラムや特別な学校を新設し、市場競争努力を高め、顧客サービスに勤めざるを得ぬ状況に追い込まれていること、第2に、伝統的な教育当局の説明責任施策の焦点は、生徒の学習成果ではなく、ルールを守っているかどうか(compliance with rules)にあること」を実証したと述べている。(New Charter Reports Confirm Ripple…..Underscore Accountability )
http://edreform.com/press/2001/edstudy.htm参照

次に、さざ波効果の具体的事例を、CERの報告書からアリゾナ州とカリフォルニア州の場合を紹介しておきたい。

(2)さざ波効果のいくつかの事例
資料 http://edreform.com/pubs/ripple.htm 18ページにわたって各州の事例が紹介されているが、ここではAZ,CAの2州の例を抄訳した。


アリゾナ州 カリフォルニア州
4.既存の公教育システムへのインパクト
     ―連邦教育省報告書を手がかりにー (本HP内「
アメリカ教育省第三年度報告書の概要」を参照)
【注1】 本研究で参考にした文献は次の二つの報告書である。
【注2】 本報告書は「全米チャーター・スクール研究」(NSCS)シリーズという、連邦教育省の教育研究・改善局(Office of Educational Research and Improvement)が後援する、チャーター・スクール運動の調査分析を目指す4年間にわたる研究の一部である。10州にわたるCS91校の現地調査、CSにおける生徒のアチーブメント・テストの実施状況、学区・州レベルでの諸施策などの調査研究を通して、4回にわたる年次報告を公刊し、CSに関する法令,CSの統計や類型別の調査結果、CSに学ぶ生徒の特性,CS設立の理由・背景、またCSの開発、推進を促進もしくは阻害する諸要因の分析結果をレポートしたもので、筆者はホームページでその一部を抄訳している(湘南教育文化研究所
本報告書は、CSがアメリカの公教育体系全体にどんなインパクトを与えたかを評価する、その最初のステップとして、先ず学区当局の教育行政施策に対する影響を調査したものである。
(1)調査の課題表10参照)
ほぼ10年間にわたって怒濤のごとく大きなうねりとなって発展しているCS運動が既存の公教育制度に及ぼした衝撃(インパクト)という側面について検討してみたい。すなわち、(1)CSの出現によって、地域の学齢児の父母、教師、地元学区の教育委員会、他の公立学校関係者、チャーター(学校経営許可証)の認可機関はこれをどう受け止めているのか。(2)CSを導入した地方教育当局は、革新的とされるCSのカリキュラムや教育方法が、既存の(conventional)公立学校(以下「CP」と略す)にも波及し、公立学校全体としてのボトムアップを図るという政策意図に立脚していた。果たしてそれは達成されているのだろうか?(3)実際に、CS全体の4%は挫折し、結局伝統的な地方教育委員会の監督下に戻ったのもある。CSがCPと共存し、競合していくためにはどんな問題があるのか?という3つの観点である。以上の問題意識に立って考えてみたい。
(2)学区当局に対するチャーター・スクールのインパクト
             ―いくつかの知見―
表5 及び 表9参照)
CSの出現を学区当局はどう受けとめたか?報告書では次の3点に調査の知見を要約する。 さらに、学区当局の管理運営に及ぼした影響調査は、(1)CSの認定機関(2)CSの在籍者数という2つの視点から分析される。
(3)学区当局に対するCSの“さざなみ効果”
(A)学区の予算へのインパクト  
(B)学区の教育施策に対するインパクト (90%)
  1.学区中央当局の学校管理・運営 (93.9%)
  2.アカウンタビリティーとオートノミー(説明責任と学校の自由裁量) (77.6%)
  3.学校施設・設備 (61.2%)
  4.学校の広報と父母の学校参加 (61.2%)
  5.校内人事 (28.6%)
(C)学区の教育助成・補助施策へのインパクト (61.2%)
  1. 学区予算に対して、No Impact(47%)Negative(45%)Positive(8%)という反応である。「変化なし」というのは、CSを選択した生徒数が微々たるもので、ほとんど影響がないこと、もう一つはその減額分を州当局が補填するという施策が講じられている場合である。有効に機能したケースは、人口増加地域に多く、新設校を建設する費用をCSが結果的に節約緩和する機能を果たしたという例もあった。
  2. 調査対象学区のすべての当局管理者は,CSの出現に対応した学校管理運営上、何らかの改革を迫られている。学区当局指導者群の約90%は、学校の説明責任(生徒の成績、自主決定権、学外への広報活動、父母の学校参加など)を重視した施策を迫られたと報告している。資料 表6参照
    1. (B-1)94%の学区がその影響力を認めている。CSに入学した生徒、元に戻った生徒の成績の追跡調査を開始した(75%)。CSの出現で当局の仕事量が増えた(更新のヒアリング、事務手続き/開校直後のCS運営の指導助言など)(65.3%)。歳入が減ったので当局のオフィスを縮小した(約1割)
    2. (B-2)説明責任と学校自主経営権(autonomy)(78%)。CS在籍者のテスト・スコア(学区もしくは州が義務づける学力テスト)得点の遺跡調査/他の公立校在籍者との比較(71%)/学区当局は今まで以上に生徒の学力に気を遣うようになった(35%)/学区内公立学校の説明責任の度合いを高める起爆剤として、CSは役に立ったと考えている(20%).CSが開発した独自のアカウンタビリティー・システムを学区全域に適用したという事例もあった。CSのオートノミーの原則に影響されて、学校現場の意思決定(site-based decision making)を重んじる考え方が他の公立学校にも普及した (12%)学区レベル、学校レベルの親の参加(involvement)プログラムが一層促進された(20%)→SBM(School-Based-Management)
    3. (B-5)CS導入に伴って、既存の公立学校の教職員定数が削減され、教員の解雇、校内人事(staffing/staff roles)の異動が起こった(29%)。教職員の採用に、地域代表を含めて決定する学区も出た。
  3. CSの導入に伴って、教育当局による教育サービス(offerings)にも変化を生じた(61%)。新しく特殊学校を新設したり、新しい教育プログラムをスタートさせた。既存校の組織機構を改革した学校もある。

    〇New Educational Program

    • 全日制/パートタイム 就学前教育(幼稚園)の学級の新設(最も一般的な施策)
    • 音楽/美術などの特別クラスの新設   
    • 英才児(gifted students)の特別クラス/’問題児’(at-risk youth)特別指導学校(オルタナティブ・スクール)
    • 課外授業(after school program)導入
    • 人格教育/特別カリキュラムの編成

    教育当局による特殊な学校群は、CSの明らかな模倣もしくは複製版という色彩が濃い→CSの革新的プログラムがモデルとなっている。

    〇New specialty schools

    • ”back to basics “ schools(“基礎に帰れ“学校)
    • 革新的な教育プログラムを研究開発する目的で、パイロット・スクールをいくつか選択肢として用意した学区もある

    ○New organizational structure

    • 全体の18%の学区当局管理職が、管内のCSに触発されて管内の他の公立学校に新しいプログラムを導入するなどで、学校の構造変化が生じたと報告。学区教育長(4人)の報告
    • 多学年制学級の編成→生徒の発達に応じた指導法の開発
    • ブロック・スケデューリング→基礎的なコア教科の学習を弾力的に拡充する
    • 児童・生徒により親切で親しみやすい学校にするための条件整備―大規模な学校をいくつかの“ファミリー”という単位でグループ化する/生徒のためのアドバイサー方式を導入して、生徒一人一人に教員を配置し、社会性や学力の向上を継続的に図っていくプログラム
(4)各州のCS法の多様性表8及び表9参照)
ワシントンD.Cを含めて38のCS法が既に成立し、各州はそれぞれ異なった導入の背景と政策意図を有している。CS法が何を許容し、何を規制しているかは、州によって多様である。
A、CSに課された役割は、例えばCS以外の公立学校に競争原理を導入するとか、他の公立学校のモデルとして機能させる、あるいは危機的な状況に立たされている生徒あるいは学校に選択の機会を拡充するなど、州当局が何を重視するかによって異なる。
(5)CSは学区にとって、“CHALLENGE”か、“OPPOTUNITY”か?表6参照)
CSは果たして学区当局にとって、挑戦(競争原理の導入)なのか、チャンス(選択権の提供と学校改善の促進)なのか?いずれかの選択を迫られている。その意識・態度はそれぞれの学区の実情によって、またその州のCS法がどう規定するかによって異なる。
 A、学区にとって‘挑戦’もしくは‘チャンス’とは?様々な見方。注 表6を参照

参考資料

表 1

表 2

表 3

表 4

表 5   学校当局の施策へのインパクト

施策の類型 調査学区全体の比率
1)学区当局の学校経営施策

93.9%

2)アカウンタビリティーと自主決定権

77.6%

3)学校施設・設備

61.2%

4)PR活動&父母の参加 61.2%
5)学校レベルの教職員人事 28.6%

表 6   学区のCSイメージと学区へのインパクト

学区内での変化挑戦チャンス
1.中央当局の運営
  ○事務量の増加(32) 58.372.0
  ○中央当局のサービスの変化(13)33.320.0
2.説明責任とオートノミー
  ○説明責任の増大(10)25.016.0
  ○テスト得点への関心高まる(17)45.824.0
  ○成績をCSと比較するようになった(35)79.2 64.0
  ○自由度の拡大:現場本位の学校経営(6)8.416.0
3.広報・父母の学校参加
  ○市場競争の拡大と広報重視(20)70.822.0
  ○父母とのコミュニケイションを重視(19)54.224.0
  ○顧客サービスの重視(22)66.624.0
  ○父母の参画の拡大(10)25.016.0
4.学校人事
  ○職員採用方針の変化(3)8.34.0
  ○校務分掌の変化(8) 29.24.0
5.学区の教育施策
  ○新しい教育プログラムの開発(24)58.340.0
  ○新設校の開校(10)25.016.0
  ○組織機構の改革(9)16.720.0

表 7   学区内の教育経営へのインパクト

(1)新しいプログラムの開発27%
(2)新しいプログラムと学内新組織12%
(3)新しいタイプの学校10%
(4)新しいタイプの学校と新プログラム6%
(5)新しいタイプの学校/プログラム/学内組織4%
(6)新しい学内組織2%
(7)特に変化は認められない39%

【注】 (1)の具体的内容:CSでは一般的な就学前教育のクラス新設/課外(放課後)特別補習/音楽、美術、特定の英才教育、ドロップアウト予防プログラム、人格教育、特定領域重視カリキュラムなどの特別授業導入(3):CSに典型的なタイプの学校で、例えば、“back-to-basics”をコンセプトにした学校、到達度のレヴェル別選択コースの学校,英才教育の学校、ドロップアウトのための学校、様々な教育観に立つ多様な教育法を提供するチャーター方式のパイロット・スクールなどの例がある(2)(5)(6)でいう「校内組織」というのは、単に既存のカリキュラム構造に授業科目の追加、増設するのみならず、次のようなカリキュラム構造の改革を含む。1)発達段階に応じた、多学年制の学級構成、2)コアとなる教科を重点的に学習を進めることが出来るブロック・スケジューリング、3)人間味のある、やさしい(student- friendly and nurturing)学校づくり、4)(大規模な小学校に見られる)子ども集団の”ファミリー“といったグループ化、5)生徒同士の相談制度(student advisory system)の導入(この場合一人一人の生徒はそれぞれ一人のスタッフに所属し、社会性の発達、学業成果などについて助言を受ける)

表 8   CSの就学者数の動向と、CSが学区予算に及ぼすインパクト

予算に対するインパクト

(学区の)就学者数の動向

NeutralPositiveNegative
     増加している学区(34)61.8%11.8%26.4%
     安定している学区(6 )33.3%0.0%66.7%
     減少している学区(9 )0.0%0.0%100.0% 
(注)かっこ内は学区の実数

表 9   就学者数の動向と学区の施策にCSが及ぼすインパクト

  学区の就学者数の動向
学校施設・教職員へのインパクト減少または安定増大
 ●職員解雇(8)46.7%2,9%
 ●当局のオフィスの縮小(5)26.6%2.9%
 ●定員以下で運営/学校閉鎖(12)46.7%14.7%
 ●学級規模の拡大(4)26.7%0.0%
 ●学級規模の縮小(3)6.7%5.9%
 ●就学者数についての当局の監視を緩和(17)0.0%50.0%
その他の学区運営へのインパクト 
 ●学区当局の事務量増加(32)73.5%46.7%
 ●学区当局のサービスに変化(13)40.0%20.6%
 ●説明責任度を高めた(10)20.0%20.6%
 ●学区内各校のテスト得点に関心高まる(17)40.0%32.4%
 ●到達度をCSと比較するようになった(35)40.0%32.4%
 ●自主決定機会の拡大:学校主導の学校経営
(autonomy : site -based management)(6)
6.7%14.7%
 ●マーケティング/PR活動(20)60.0%32.4%
 ●父母とのコミュニケイションの改善(19)53.3%32.4%
 ●顧客サービスの増加(22)60.0%38.2%
 ●父母の学校参加の促進(10)26.7%17.6%
 ●教職員採用に変化(3)6.7%5.8%
 ●教職員労務管理に変化(8)46.7%2.9%
学区の教育への変化 
 ●新しい教育プログラムの開発(24)60.0%44.1%
 ●新しい学校の開校(10)13.3%23.5%
 ●カリキュラムの組織、構造の変革(9)20.0%17.6%

表 10    この調査対象州の学区数とCSの学校数

州名学区数CSの数全体のCS数
 1)アリゾナ(AZ)12126180
 2)カリフォルニア(CA)1665145
 3)コロラド(CO)2060
 4)マサチュウセッツ(MA)1734
 5)ミシガン(MI)67132

結びにかえて

 本稿はアメリカ教育学会(2001/11/10,第13回大会 於 椙山女学園大学)で発表される草稿の一部である。使用した資料がいずれも最近公刊されたもので、訳語、情報精査、分析が消化不十分なまま、公開に踏み切った。今後、修正・更新を重ねながら、より精選された、的確な情報をお届けしたいと考えている。本研究では、大学院時代の学友、伊藤 稔氏(東京理科大)には、たいへんお世話になった。このページを借りて感謝申し上げたい。
 数日前、伊藤氏から紹介された「The 11th Bracey Report on the Condition of Public Education By Gerald W. Bracey, PHI DELTA KAPPAN October 2001」は、大いに参考になった。特に、学力評価の信憑性への疑義、アカウンタビリティー概念の曖昧性、CS運動と学校閉鎖の問題、学校経営企業(EMO)の急速な拡大など、CS運動は前途多難であることは間違いない。しかしながら、これまで見てきたように、CSの出現が他の公立学校の経営に及ぼしたインパクトは大きい。児童・生徒、父母のニーズに合った教育サービスが今後一層求められ、そこにこそCSの存在意義があることも確かである。

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