アメリカ教育学会資料1 学校閉鎖の問題

 

1.チャーター・スクールの学校閉鎖問題 ―最近の動向―
 現在まで、2400校を越えているとされるCS群のなかには、最初の契約期間を過ぎて更新を迎え、既に第二、第三のラウンドにはいっている学校が数多くある。CSはその定義から、チャーターの申請者(applicants)たる教師、父母らの学校経営者は、そのチャーター認可機関に対して、所定の報告や当局の審査を受けて更新手続きをしなければならない。評価・査定の段階で、そのチェックに異議が出され、チャーターに記載された条項に違反したと認められる場合、更新不認定となり最終的にチャーターは解約され、学校は閉鎖(closure)されることになる。逆に、学校経営の資金に行き詰まり、維持できなくなったり、生徒が期待した通りに集まらず維持不能に陥り、やむなくチャーターを返上した例もある。
CER(Center for Educational Reform教育改革センター)の調査によると、1998年には全国に1128校のCSが確認され、そのうちの2,6%にあたる30校が実際に閉鎖されたと報告している。その翌年の1999年(秋)には、1674校(32州)の内39校(全体の2.3%)のCSが閉鎖したといわれている。さらに、最近のCERのデータ(January 2001年)によると、全米のCSは2150校で、その内86校(CS全体の4.0%)が閉鎖に追い込まれている。学校閉鎖のみならず、CSとして認可された学校がチャーターを返上して、学区所属の公立学校や私立学校、他のCSに吸収、合併された(consolidated)ケースとして、他に26校報告されている。さらに、チャーターは認可機関から正式に受け取ったが、様々な理由から一度も開校されず 、チャーターが失効して消滅した学校が50校あると報告されている。これらを併せて162校がCSのリストから消えたことになる。これを多いとみるか少ないとみるかはさておき、CS運動が万事順調にいっている訳ではないことを窺い知ることは出来る。

2.学校閉鎖の背景

 連邦教育省(US DEPARTMENT OF EDUCATION)・OERIの二年度報告書(ANational Study of Charter Schools-Second Year Report)の報告では、1997年3月現在で確認された全国のCS712校のうち閉鎖した(された)学校数は19校であった。内訳は次の通りである。AZ(10校),CA(5校),CO,MA,MI,MNの各州が1校である。また、19校の中で、12校が実際に廃校となり、7校は元の一般の公立学校に戻り(CA,AZ,CO各一校)、他のCSと合併するという事例(AZ)、州の要件にあうように一年間閉鎖し次年度再出発を期しているという事例(MA)もある。いずれも、個々の学校によってそれぞれ事情が異なるが、19校中9校(AZ―3校,MI―1校,MN―1校)が自主的に閉校を決断している。更新不許可あるいは自発的な契約解除といい、その背景にはそれぞれの学校の様々な事情が見え隠れしている。教育事業という市場競争の原則とはいえ、公立学校の場合、自己選択に基づく自己責任といって片づけられる問題ではない。
 そこで、最近のCER報告(2001)を参考に、その背景をもう少し詳しく探ってみたい。
まず、閉校した86校の内訳を、州ごとに比較してみたのが次の表1である。
資料以下のデータは2001年1月更新のCERWeb-siteを基に作成。
http://edreform.com/pubs/cs_closures.htm

表1  閉鎖した学校の州別分布

 

表2 認可機関別数

学区教育委員会     50校
州教育委員会       31校
大学             5校
 

表3 閉鎖の理由

1. 財政・資金の問題
 (1)就学者の定員割れ
 (2)資金不足
 (3)金銭上の問題/アカウンタビリティー
2. 杜撰な経営
 (1)杜撰な管理・運営 
 (2)指導力/組織力不足
 (3)定員増の就学
 (4)公金横領 
 (5)報告書不備・偽造/杜撰な帳簿管理
 (6)私立学校、宗教系学校との不明朗な関係
 (7)教員資格の不備/教員の資質
 (8)入学生徒の減少
 (9)学校理事会の運営
3. 授業内容
 (1)不十分な教科プログラム
 (2)スタンダード違反
 (3)職業教育/特別活動/体育コースの不備
 (4)教員免許状の不備
 (5)学習成果が見られない
 (6)教育プログラムの不適切性
4. 施設・設備
 (1)校舎の賃貸トラブル
 (2)消防法違反建築
 (3)建築基準法違反
 (4)移動トイレの使用
 (5)必要設備の不備
 
 

表4 閉鎖した時期

1994   1校
1996   4校
1997   7校
1998  18校
1999  23校
2000  33校

所  見

 全米でCSの学校数が最も多いアリゾナ州が21校と突出しているが、CSに学ぶ生徒数が全米一のカリフォルニア州が6校というのは相対的に少ない(AZの閉鎖率は4.7%,CAの閉鎖率は2.1%)。このことは各州のCS法に定める制度の違いから説明されよう。すなわち、CAの場合は認可機関は学区教育委員会のみに限られ、また私立学校からの転用は認めていないが、AZの場合、認定機関は複数制でしかも州教育当局は、CSの審査、認可、その他の管理事務を専門に執行する特別の機関(State Board for Charter Schools)をCS法によって設置しており、公立、私立学校の転用校や新設校をCSとして認める幅の広さがあり、CS申請の認可手続きの許容度がはるかに高いことである。
 表2で、教員養成学部を擁する大学が認定機関の権限が与えられているが、全米では5州で大学・カレッジにもその権限を与えており、表2の5校はすべてミシガン州(Central Michigan University, Oakland Universityの2校)に集中している。
 閉鎖の理由をみると、(1)財政・資金不足(2)杜撰な経営(3)不適切な授業計画・カリキュラム・教員配置(4)施設・設備の不備の四つに分けることができる。CSの閉鎖には、大抵、これらの項目の複数が関与し合っており、一義的に規定できないところに理由分析の難しさがある。次に、いくつかの事例をあげ、一層の理解に供したい。

(1)EDUTRRAIN(Los Angeles Unified School District)

 当校は1993年6月に開校、‘94年12月学区教育委員会でチャーター取り消しが採択され翌年の1月全米で閉鎖第1号となった。ドロップアウトその他の問題を抱える10代の青年を対象に設立されたが、初年度500人以上の入学者を抱えたが、未熟な学校経営で生徒の急増に追いつかず、(1)杜撰な帳簿管理(2)学校財政の失敗(3)不当行為等の理由で更新が認められなかった。学区検査官は申請書類の生徒数と実際の生徒数仁平記があることを指摘し、さらに校長の汚職が発覚し学区当局は事態を公表したのである。
(2)YOUTHBUILD CHARTER SCHOOL(MA)
 当校は伝統的な公立学校ではうまくやってゆけない生徒(18−24才)を70人集めて、卒業資格をとらせ、職業訓練プログラムの実習を計画。しかしながら、学校組織の乱れから、正常な教育活動が期待できないとの判断で、1996年12月教育委員会は休校命令を下した。具体的には、(1)学問的必修教科内容が弱いこと。特定必修教科が抜けている(2)卒業要件を満たさない(3)カリキュラムはマサチュセッツ州カリキュラム基準に達していない(4)カリキュラムが精選され組織化されていない(5)学校のアカデミック教科のアカウンタビリティー及び評価計画が不適切(6)教育方針(strategy)と目標があいまい(7)重大な教育上の障害を持った生徒のニーズに即した教育計画の欠如(8)校内規律(discipline)の指導方針が不明瞭で、理論的根拠に乏しい、といった理由が挙げられた。1997年5月、状況は何ら改善されず、教委はチャーター取消処分を勧告。学校側は新しい組織構造を変革したが、問題は依然として改まらずついに正式に取り消しを決定した。
 確かに、86校(合併、開校前解約を含め手162校)というのは「とるに足らぬ」数字かもしれないが、CS運動の反対論を展開する教員組合(NEA)などは、CS批判の格好の論拠に学校閉鎖問題をアカウンタビリティーの問題として取り上げている。

結論 学校閉鎖が提起した問題

 発展途上にあるCS運動に水を差すような、いささか気が引ける問題提起ではあるが、上述したCSの学校閉鎖が投げかけている教育経営上の問題点は大きい。わずか全体の4%前後に満たない数字ではあるが、検討すべき問題はあまりにも大きいことに気がつく。
 第一点は、学校を経営する資格なしと認定し、教育行政当局とCS設置申請者との間で交わしたチャーターを破棄する(CSを取り消す)処分の理論的根拠である。前述の事例はいずれも明らかな契約(チャーター)違反もしくは法律違反の犯罪が処分の対象となっていおり、学校経営者自身の教育指導力、経営能力の欠如に起因するといえよう。このように法的根拠が明白であれば議論の余地はない。しかし、CSを実施する州のほとんどは、生徒の学習成果(パーフォーマンスもしくは「結果(outcome)」)、学校の教育効果(effectiveness)に対する説明責任(アカウンタビリティー)を学校が負うことを要請しているのである。学校の「学習成果」や「教育成果」をどう評価し、どう測定するのか。学校経営の評価、その理論的根拠は何かがあらためて問われている。
 第二点は、公立学校のアカウンタビリティーとは何かという基本的問題である。とりわけ、父母、生徒が自分の意志で学校を選択し、自立的教師たちが自分たちで教育プログラムを自由に編成し学区当局から権限を委譲されたCSの場合、その責任は、「一体誰が、誰に対して、どのようにとる責任か」「何に対する責任なのか」という原理的問題が現時点ではきわめて曖昧である。CSの財源は私立学校と違って、個人の篤志や民間の教育団体、財団ではなく、国民が納めた税金であり、従ってスポンサーである国民に対する責任をどう明確化し説明できる(ACCOUNTABLE)が新しいCSという経営方式の登場によって問われているのである。
1970年代初頭に起こったいわゆるアカウンタビリティー運動は、公教育に投入された莫大な公金(税金)がそれに見合う効果をあげているのかが、国民(納税者)によって連邦、州、地方学区当局が問われたのであった。しかしながら、学校経営の権限が全面的に個々の学校に委譲されたCSでは、どのような責任システムを想定しているのかが問われている。  第3点は、責任の取り方で、学校を閉鎖すればよいのか?自分の意志で選択した生徒や父母はどうなるのか?という取り残された生徒、父母、教師たちの問題である。現在の所、閉鎖されたCSの生徒は、他のCSに転校するか元の近隣の公立学校に戻るというケースが多い。公教育の管理責任を有する地方学区教育委員会が、閉鎖という最終の事態の事前、事後のサポートのあり方が改めて問われているといえよう。

[ Home ]