アメリカ教育学会 発表資料
チャーター・スクールのアカウンタビリティー研究
(教育省報告書 NO 2)

Paul Hill, Robin Lake, Mary Beth Celio /Center on Reinventing Public Education/ Daniel J. Evans School of Public Affairs, University of Washington ;CHARTER SCHOOL ACCOUNTABILITY: National Charter School Accountability Study, U.S. Department of Education, Office of Educational Research and Improvement, June 2001

本報告書は連邦教育省、教育研究・改善局(OERI)の後援で、ワシントン大学公教育再建(reinventing)センターのプロジェクト・チームに委託して調査研究したもので、チャーター・スクールの説明責任に関する最初の全国的調査研究である。
1997年に研究をスタートし、2000年にその調査結果がまとめられた。新設されて3年以内の新しいCSは除いて、2年次研究報告(1998)と同様、異なったタイプの6州を限定し、全部で60の認可機関と150校のCSを抽出し、さらにアカウンタビリティー研究の重点校として17校を抽出し集中的なフィールド研究を実施した。
研究の目的は、実際のCSの教育現場―主に、(1)CSの実践推進者(2)CSの許認可に携わる政府機関関係者(州議会議員、州知事)(3)CSの運営資金を提供する人々(連邦政府や民間財団を含む)の3つのグループーの役に立つ情報を提供することである。具体的には次の4点を明らかにしようとする。

政府機関の教育行政職員や教育委員は、公教育における説明責任の概念がCSの登場によって異なった意味を帯びてきた事実を知る必要がある。学校レベルで独自に発案して、実践したら、その結果を報告し説明しなければならない。自由な教育実践を認める替わりに、児童生徒の学習成果に関する、厳しい説明責任が求められるのである。逆に、教育当局には、CSが期待された教育成果を出しているかどうか、監督する義務が課されているのである。基準を重視した改革(standards-based reform)でも、学校主導の経営(site-based management)でも、従来の伝統的な規則遵守(compliance)に基づく説明責任システムに代えて、学校現場固有の教育成果(performance)に基づく説明責任システムを創る必要があろう。CSによる教育は、学校現場固有の説明責任の手法を開発し、試行してみる恰好の実験室を提供していると考えられる。

CSが様々な団体や個人の支援に依存しているという事実によって、次のような新たな説明責任が伴う。

  1. CPS(一般の公立学校)に求められる説明責任とは、地方学区や州の教育委員会が制定した規則に従わなければならず、また、外部の教員組合や諸団体と教委が取り決めた事項を遵守しているかどうかである。CSでは、それら多くの法令・規則に縛られず、その替わり生徒の学習(成果)を具体的に実証することが義務づけられる。当局に対する説明責任の手段として、学習成果(performance)と規則遵守性(compliance)を置き換えることが可能なのかどうか?
  2. CSが政府当局の期待に応えたとしても、教員や父母(場合によっては資金協賛者)が拒否したら閉鎖せざるを得ない。父母や教員への依存(dependence)によって、納税者(the public) への責任(responsibility)無視することにならないか?
  3. CSは限られた人材で、一度に、たくさんの利害関係者(団体)の期待に応えなければならないとすると、それらに気配りするのにエネルギーが振り向けられ、効果的な教授―学習を提供するという本来の目的に力を注げるのだろうか?

3つのパースペクティブ−研究の焦点−

  1. CSのスタッフ・グループ―多様な説明を求める団体・個人とのバランスのとれた関係(diverse accountability  relationships)が求められる。校内の説明責任システム(internal accountability)を確立するにはどうすればよいか?(本報告書のキー・コンセプトとなっている)
  2. 認可機関の職員グループ−-CSを認可する権限を与えられている地方教育委員会、その他州教育当局の機関で、これまでとは違う新たな手法によるCSの監督・査察(oversee)が求められる
  3. 州教育当局の行政官グループ−認定機関や個々のCSの果たすべき責任(responsibility)を明らかにした規則を作成する役割を担う

    • (1)新設校、(2)公立転用校(public conversion)、(3)私立転用校(private conversion)の3つの指標を用いて、@CS建学の理由 A設立当初直面した問題 B校務運営で自由裁量がどこまであるのか C生徒の学習成果や出席状況の監査システム(チェック体制)を分析し、その違いを明らかにしている。
    • CSの場合、学校理事会(school governing boards)が校内のアカウンタビリティー保持に主要な役割を果たす。理事会と校長/教職員間の学校運営に関するいくつかのトラブルを確認(MA,AZ、CO)した。特に営利目的の教育経営会社の場合は複雑である(Edison, Sabisなど)。構成メンバーは、教員・父母代表,CS創始者、地域代表、公立学校校長、議会代表など、様々である。
    • CSの管理者、教員、父母にとって、監督官庁である認可機関との関係はあまり重視されていない。認可機関は,CSの申請手続き、申請書の審査(許認可)、教育成果の評価、報償、更新手続きなどの事務処理に慣れていない。個々の学校のパーフォーマンスを評価する専門的知識が不足しており、結局旧来のやり方―法律主義、規則遵守の妥当性、会計の健全性等を基準荷審査しているのが実情。
    • 従って、認可当局は、(1)学校が生徒の学習にどう貢献しているかの審査基準(2)改善されている学校とそうではない学校の判断基準(3)チャーターを維持するために、CSの生徒の到達度がCPS(他の公立学校)の同様の生徒の到達度と同じか、それ以上のレヴェルに達していることを義務づけるべきかどうかについて、対策を講じる必要がある。認可権を有する学区当局で、何とかそれを果たしているのは調査した学区全体の7%に過ぎない。
 前述した連邦教育省の報告書(2)は、CSの説明責任(accountability)に関する実証的調査報告書(1997−99年の調査で、それぞれ特色のある6州―AZ,CA,CO,GA,MA,MI-に限定して調査もの)で、特に、CSとその認可機関、政府当局の管理者(CS150校/60認可機関)を対象にしたアンケート・面接調査の分析から成る。これは、「CSにおけるアカウンタビリティーに関する研究分野での全米最初の大規模な研究(first extensive, nationwide study of charter school accountability)」の成果であり、曖昧模糊とした「説明責任」概念の実情を実態調査によってより明確化し、CS研究の新たな課題を提供している。とはいえ、現時点(2000年)で、開設されて2〜3年しか経たないCSが全体の半分以上を占めている調査には自ずと限界がある。CSの説明責任について一義的に一般化するには時期尚早である。
 なお、87ページにわたる本書を要約するのは不可能に近い。ここでは、注目すべきいくつかの知見を紹介し、今後のアカウンタビリティー研究の布石としたい。

調査の視点

いくつかの知見

  1. CSおよびCS認可当局の多くは新たに課された説明責任や関係団体との交渉にどう対応するかを習得しつつあることが確かめられた。
  2. 認定当局、父母、教師、協賛者(団体)の信用を得る最善の道は質の高い教育を提供することに専念することだと自覚している。
  3. CSの説明責任で、CS管理者が最も気を配っていることは、校内で、日常、教職員、生徒、父母、資金援助者との関係で、いかに建設的な関係を保持するか、すなわち内在的説明責任(internal accountability)である。
  4. CSの校務監査機関となっている学校理事会(governing boards )の設立、理事会と教職員の責任分担の明確化こそCSの成否を決する要因であることがわかった。
  5. 新たに設置されたCS認可当局(大学、地方学区、州政府の特定部局)は、自らの職務を的確に把握しているが、旧態依然の学区当局は法令・規則本位の監督といった長い間積み重ねてきた慣習を抜け出せないでいる。 CS管理者は、認可権を持つ政府当局が設定した学力到達基準を目指すべきこと、しかも当局との信頼関係を重視すべきことを承知しているが、その基準(CSに何を期待するか)、監査手続きが曖昧な場合が多い。学習成果の評価基準を明確にしない認可当局は、結局、政治的な評判や法令・規則を守っているかどうか(compliance)に基づいた古い評価手法が暗黙の了解事項となっている。


アメリカ教育学会 発表資料(2)
一般に、チャーター方式のもとでは、認可機関との間に期限が定められ、期間中の教育成果が問われることになっている。いわゆる説明責任(accountability)を避けることは出来ないのであり、その義務に違反した場合チャーター契約は解除され、そのCSは閉校に追い込まれる。CSにはこのような緊張関係が常につきまとう。すなわち、CSの管理責任者は、定期的に所定の報告書を教育当局(学区教育委員会、州教委、その他大学などの認可機関)に提出し、行政当局の職員による学校視察・会計監査などを受けなければならない。しかも、ほとんどの州では、州当局が実施する学力テストの受験と結果報告を義務づけている。チャーター方式による学校経営の特色は、自由な学校選択制度を前提として、子どもとその父母、さらにそこで指導する教職員のニーズに基づいて学校が運営されるという点である。従って、学校に教職員の任用権があり、教員もその学校を選択して就職する。その点でも、伝統的な既存の公立学校(CPS)とは大きく異なる。CSの経営者はCPSでは達成できない教育の理想を追求して、独自の建学の理念と教育方針を掲げて、理想の学校像をデザインして認可当局に申請し、CSとしての学校経営を委任されたのである。両者で取り交わすチャーター(公立学校運営の許可証)の内容は、各州の州議会で承認されたCS法によって、CSの数(上限を定めている場合が多い)、認定機関、不服手続き、申請者の資格、認可の条件、更新までの有効期限、州や学区の法令に縛られないか、その自由裁量性の範囲、公費による学校財政の自主決定権をどこまで、どのような条件で認めるのか等が規定されるのである(CS法の州別比較とチャーターの分析は、日本教育制度学会第6回大会(1998年)で発表している)
以上略述したように、CS方式では学校の管理運営責任者(校長)と学校理事会(governing board)の役割と責任は重い。後者は、学校創始者、協賛団体・企業(寄付者)、地域代表、父母・教員代表等で一般に構成されており、学校経営の基本方針を決定し、校長(administrator/director/manager)・教職員を採用し、学校財政に関する最終的な責任と義務を負うのが普通である。

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