CS運動は地方学区に
どんなインパクトをもたらしたか?
(連邦教育省報告書/2001年6月公刊) 抄訳 (2001/7/30)
(The Impact of Charter Schools on School Districts)
湘南教育文化研究所 菊地英昭
1991年、ミネソタ州で全米初のチャーター・スクール法が制定され、翌年、第一号のチャーター・スクールが誕生して以来、チャーター・スクール運動は年々急速に拡大の一途をたどり、2001年6月の時点で、36州とワシントンDCが立法化し、その数は既に2000校を突破し、約51万9000人の児童・生徒が新しいスタイルの学校で学んでいるといわれている。 |
近年の、新しい学校改革の“うねり”の中で、連邦政府教育省はこの動きに特段の関心を示し、連邦議会の勧告をふまえ、1995年から調査を研究機関に委託し、全米チャーター・スクール調査研究(The National Study of Charter Schools)4年研究(the four- year study)プロジェクトを設立しその一環として、1997年に第一次報告書、翌年、第2次報告書を刊行したのである。本報告書は、チャーター・スクールに関する前述のCERの調査結果とは別に、連邦教育省挙げて独自に計画された、しかも、大規模かつ総合的調査研究の成果であり、日本人研究者として大いに注目したい報告書である。
周知の通り、東京では品川区や日野市、さらに最近では豊島区、足立区で、従来の学区制を改革し手新たに学校選択の自由化の施策が導入されている。父母の学校選択が自由化されたら、学校間の格差はどうするのか?学校間の競争は好ましくないのでは?既にわが国でも、教育関係者の間に論議がまき起こっている。アメリカのチャーター・スクールは、日本の学校選択論とは比べものにならないほど徹底した、画期的な公立学校改革論であり、父母、教師、教育当局、国民の世論に投げかけたインパクトは余りにも大きい。
ここで取り上げる報告書は、「挑戦と機会―チャーター・スクールが学区に及ぼしたインパクト」と題して、このCS運動が全国の学区教育委員会の当局指導者たちにどのように受け止められ、その出現によって他の公立学校全体の学校改善にどんなインパクトを与えているかを実証的に明らかにしたものである。
CS運動の当初から、CSというもう一つの学校システムが伝統的公立学校と共存することにより、後者は刺激され、改善を迫られ、結果的に学区全体の公立学校の改善−とりわけ公教育全体のボトムアップがはかられると考えられてきた。果たしてその仮説が10年後の今日実証的調査によって裏付けられるのかが注目されてきた。なぜなら、CS法が今なお成立せず、CSが皆無の州が10州余り有り、法的整備がなされてもCS開設を躊躇している学区や学校改革に熱心な教育関係者にとっても、導入の当事者である学区教育委員会がこのチャーター・スクール運動をどう捉え、学区の教育経営にどんなインパクトをもたらすかが関心の的だからである。
アメリカのみならずわが国においても、近年、チャーター・スクールに対する関心が高く、学校選択の自由化を求め、新しい公立学校を創ろうという運動が起こって来つつある。この場合、各自治体の教育委員会がその動きを積極的に評価するか、否定的に見るかという対応の違いが出てくるだろう。
原典
Challenge and Opportunity-The Impact of Charter on School Districts, A Report of the National Study of Charter Schools ,U.S. Department of Education, Office of Educational Research and Improvement, RPP International, June 2001
序論
本報告書は「全米チャーター・スクール研究」(NSCS)シリーズという、連邦教育省の教育研究・改善局(Office of Educational Research and Improvement)が後援する、チャーター・スクール運動の調査分析を目指す4年間にわたる研究の一部である。10州にわたるCS91校の現地調査、CSにおける生徒のアチーブメント・テストの実施状況、学区・州レベルでの諸施策などの調査研究を通して、4回にわたる年次報告を公刊し、CSに関する法令,CSの統計や類型別の調査結果、CSに学ぶ生徒の特性,CS設立の理由・背景、またCSの開発、推進を促進もしくは阻害する諸要因の分析結果をレポートしている。
さらに、テーマ別の報告書(Charter Laws and implementation of charter schools;Mapping the Charter Universe: Discovering Alternative Systems of Education; Teacher Intention to Stay and Charter School Sustainability; Are Charter Schools Improving Student Achievement?)は、主にCSの教育システム、CSを選択した教員の特性、CSが生徒の成績に及ぼした効果などについて報告している。
本報告書では、教育行政担当者がCSの出現によって学区内の教育や教育経営にどのようなインパクトを起こしていると見ているか、またどのような条件のもとで学区は特定の影響を受けるのかを明らかにしている。この研究の基礎になったのは、特定のCSを集中的にフィールドワークし、そのCSの属する学区の諸条件の分析、さらに各州のCS法とそれが生まれた施策上のコンテクストの分析である。
なお、RPPインターナショナルは「Institute for Responsive Education」(IRE)の協力を得てNSCSの研究を進めた。
本書の構成
1)CSの学区に及ぼすさざ波効果("Ripple" Effect)
a. 学区予算 b.学区の管理・運営 c.学区の教育
2)CSが学区に及ぼすインパクトを規定する州または地方当局の諸条件
3)学区の導入決定と学区の管理、教育に及ぼした効果
4)CSに対する学区の反応−challenge/opportunity
5)結論
要約
- CSの定義−tuition-free public schools freed from regulation in exchange for greater accountability
- CSは生徒とその家族にもう一つの教育選択の機会を提供するだけではなく、公教育制度全体に変化を促進し、従ってその発展は全ての生徒のためになると考えられている。
- 教育選択の拡大、市場の競争原理の導入、CSが他の公立学校の教訓となるモデルとして機能することにより、制度的変化をもたらすという仮説
以上のような理論的仮説の真偽を実証的に検討するために、(1)CSの出現によって学区は学区内の学校管理、教育内容にどんな変化を認めているか?(2)いかなる条件のもとで学区の学校管理、教育内容に影響を及ぼしうるのか?を明らかにする。
調査対象はCSの導入に先駆的な5州(AZ,CA,CO,MA,MI49学区)に限定し、集中的に現地調査を実施した。その抽出に当たっては、学年構成、都市化の度合い、などを考慮した。そのうち14学区を重点的に現地視察し、当局の管理職員、教育長、新聞記者、教育専門家などに直接面接した。その他の35学区は、主に電話でインタビューして調査したものである。調査時点は、1998(11月)−1999(5月)である。
いくつかの知見
CSの出現によって
- 学区の教育予算がCSの生徒分だけ削減されたこと。CSが実施されている学区の管理職の半数以上がこれを否定的に受け止めている。
- 同様に半数以上の学区当局の指導者は、顧客(父母)に対する市場調査や広報関係の仕事、父母との会合連絡等の仕事が増加し、頻繁になったと報告している。
教育行政担当者は、学区内のCSに通学する生徒のリストアップとCSでの学力テストの成績の追跡調査、他の公立校との比較などに関心を払うようになった。
- ほとんどの学区では、教育プログラムの見直しを迫られ、学区内のCSに類似したプログラムを有する新しい学校を設立したところもあった。
さらに、学区当局の管理運営に及ぼした影響調査は、(1)CSの認定機関(2)CSの在籍者数という2つの視点から分析される。
- それぞれの州のCS法には、チャーターを認定する機関が明記されている。学区当局のみが認定権を有する州、学区とその他法律で認める機関(大学など)の複数の場合、もう一つは州レベルの教委またはその他の機関のみに限定している場合の3つのケースがある。
- 29の調査学区中、認定権を有する学区当局は3学区、他の認定機関に委託されているのが26学区で、これらの学区は認定権を持っていない。後者の学区群はCSの影響をより強く受けていることがわかった。すなわち、学校予算の削減、マ−ケッティング、広報、顧客サ−ビス新しい教育プログラムの開発、特別の学校新設などに、以前よりその対応に追われるようになった。
- AZ、MIの場合、認定権があるにもかかわらず、実際には他に権限を委譲している。
- カリフォルニア、コロラドの各州の場合、認定権は学区当局以外認めていない。従って、予算にからむ不満や当局の管理運営上の諸問題にはほとんど影響力はなかった。MAにおける学区へのインパクトは、MI、AZよりむしろCAやCOとの共通点が多い。MAでは学区は認定権を持っていないが、CSを選択した生徒分の予算減額については、州当局が考慮し補填、緩和する施策が採られていたのである。
- 地方の人口動態と学区へのインパクトとの関連性は高い。児童・生徒人口減少地域は15学区、増加地域は34学区であり、減少学区の教育予算はCSの出現で財政的に深刻な影響(negative impact)を受けていた。教職員の解雇、中央当局事務所の規模削減、閉校、学級規模の拡大、顧客(生徒、父母、地域住民)へのサービス増加、新たな教育プログラムの開発などが報告されている。
- 人口増加地域で、チャーター認可権を有する学区のほとんどの行政担当者はCSをもう一つの選択肢として見なし、とくに当局の管理運営、学校財政に変化を及ぼしているとは考えていない。学区によっては,CSを管内の学校改革を促進する手段として活用している例も見受けられた。
- 結論として、CSの出現によって、どの学区も教育サービス、学区の学校経営いずれにも改変を迫られ、その変化の度合いは児童生徒の在籍者数(enrollment)、学区の財政状況、CSの認定機関の様態によって異なると言える。CSの急激な量的拡大及び各学区が学校経営、教育内容いずれにも改変させる傾向を強めていることからも、CSが公教育システム全体にインパクトを与えているという事実を示唆している。
Section 1 序論
CSの基本原理
CSは比較的最近の現象ではあるが、CSに関する膨大な文献を見ると、伝統的な公教育システムの根底に関わるCSの3つの問題提起に集約できる。第一に、父母・生徒に付与された学校選択(choice)の機会を提供するもので、従来の公立学校ではほとんど認められなかった制度である。第2に、CSの登場によって、公教育システムの内部に、市場競争(competitive market forcing)原理を導入することになったこと、第3に、CSに付与された大幅な自由裁量権(autonomy)によって、学校教育の革新的モデル(innovative models of schooling)となり、他の公立学校が見習うべき教育革新(innovation)のいわば実験室として機能することとなったということである。
本報告書は、CSがアメリカの公教育体系全体にどんなインパクトを与えたかを評価する、その最初のステップとして、先ず学区当局の教育行政施策に対する影響を調査したものである。
- Kolderie (1999) CSの効果を検証すると言うことは、CS法やCSの出現に応えて、学区が実際にどれだけ改革や改善の施策を講じたかどうか、すなわち“さざ波効果”(ripple effect)を測定することであると述べている。
- 本調査では、さらに、いかなる条件の下でCSは学区の学校教育や教育経営に変化をもたらすのかという研究課題を設定した。
Section 2 調査方法
- NSCS(National Study of Charter Schools)プロジェクトは4年間の継続研究である。抽出した調査対象は10州で、学区へのインパクト研究はそのうちCSを導入した典型的な州5つを選び、スタッフはその中のCS91校を視察し、そのうち5州に限って、51学区64校のCSを訪問した。
- 学区代表者(教育長)の見解は重要である。本調査では、すべての学区の教育長もしくは教育長代理(deputy superintendent)のインタビューを重視した。
- CSに注目し報道している教育担当の新聞記者にも面接、インタビューしてコメントをとった。
- 対象学区の選定に当たっては、CS開設時期は重要な要因であり、今回は2年半から5年半の実績のあるCSに限定した。
- インパクト分析のキー・ファクターとしては、(1)州の特殊事情と州の教育法令(2)CS認可機関の様態(3)学区内児童生徒の在籍者数の動態である。
Section 3
学区当局に対するCSの“さざなみ効果”
(A)学区の予算へのインパクトーnegative(45%)/ positive(8%)/ No impact(47%)
(B)学区の教育施策に対するインパクト(90%)
- 学区中央当局の学校管理・運営(93,9%)
- アカウンタビリティーとオートノミー(説明責任と学校の自由裁量)(77,6%)
- 学校施設・設備(61,2%)
- 学校の広報と父母の学校参加(61,2%)
- 校内人事(28,6%)
(C)学区の教育助成・補助施策へのインパクト(61,2%)
- 学区予算に対して、No Impact(47%)Negative(45%)Positive(8%)という反応である。「変化なし」というのは、CSを選択した生徒数が微々たるもので、ほとんど影響がないこと、もう一つはその減額分を州当局が補填するという施策が講じられている場合である。有効に機能したケースは、人口増加地域に多く、新設校を建設する費用をCSが結果的に節約緩和することとなった。
- 調査対象学区のすべての当局管理者は,CSの出現に対応した学校管理運営上、何らかの改革を迫られたる。学区当局指導者群の約90%は、学校の説明責任(生徒の成績、自主決定権、学外への広報活動、父母の学校参加などを重視した施策を迫られたと報告している。
- (1)94%の学区がその影響力を認めている。CSに入学した生徒、元に戻った生徒の成績の追跡調査を開始した(75%)。CSの出現で当局の仕事量が増えた(更新のヒアリング、事務手続き/開校直後のCS運営の指導助言など)(65.3%)。歳入が減ったので当局のオフィスを縮小した(約1割)
- (2)説明責任と学校自主経営権(autonomy)(78%)。CS在籍者のテスト・スコア(学区もしくは州が義務づける学力テスト)得点の遺跡調査/他の公立校在籍者との比較(71%)/学区当局は今まで以上に生徒の学力に気を遣うようになった(35%)/学区内の公立学校の説明責任の度合いを高める起爆剤として、CSは役に立ったと考えている(20%).CSが開発した独自のアカウンタビリティーシステムを学区全域に適用したという事例もあった。CSのオートノミーの原則に影響されて、学校現場の意思決定(site−based decision making)を重んじる考え方型の公立学校にも普及した
(12%)学区レベル、学校レベルの親の参加(involvement)プログラムが一層促進された(20%)→SBM(School-Based-Management)
- (5)CS導入に伴って、既存の公立学校の教職員定数が削減され、教員の解雇、校内人事(staffing/staff roles)の異動が起こった(29%)。教職員の採用に、地域代表を含めて決定する学区も出た。
- CSの導入に伴って、教育当局による教育サービス(offerings)にも変化を生じた(61%)。新しく特殊学校を新設したり、新しい教育プログラムをスタートさせた。既存校の組織機構を改革した学校もある。
〇 New Educational Program
- 全日制/パートタイム 就学前教育(幼稚園)の学級の新設(最も一般的な施策)
- 音楽/美術などの特別クラスの新設
- 英才児(gifted students)の特別クラス/’問題児’(at-risk youth)特別指導学校(オルタナティブ・スクール)
- 課外授業(after school program)導入
- 人格教育/特別カリキュラムの編成
教育当局による特殊な学校群は、CSの明らかな模倣もしくは複製版という色彩が濃い→CSの革新的プログラムがモデルとなっている。
〇 New specialty schools
- "back to basics" schools(“基礎に帰れ“学校)
- 革新的な教育プログラムを研究開発する目的で、パイロット・スクールをいくつか選択肢として用意した学区もある
○ New Organizational Structure
- 全体の18%の学区当局管理職が、管内のCSに触発されて管内の他の公立学校に新しいプログラムを導入するなどで、学校の構造変化が生じたと報告。学区教育長(4人)の報告
- 多学年制学級の編成→生徒の発達に応じた指導法の開発
- ブロック・スケデューリング→基礎的なコア教科の学習を弾力的に拡充する
- 児童・生徒により親切で親しみやすい学校にするための条件整備―大規模な学校をいくつかの“ファミリー”という単位でグループ化する/生徒のためのアドバイサー方式を導入して、生徒一人一人に教員を配置し、社会性や学力の向上を継続的に図っていくプログラム
要約
CSは地方学区の教育システムに影響を与えている・学区当局の管理職の調査では、CSの影響力は、学区予算、学校管理運営、教育サービス全体に及んでいる。CSのネガティブな効果(学区予算の削減、教職員の解雇、学校閉鎖、教育委員会事務所の縮小など)を強調する学区もある。他方、生徒増に伴う諸問題の解決策として、ポジティブな効果を報告する学区も多い。
CSに刺激されて、将来性に富む改革を実施した学区もあった。中央行政当局のサービスの質を高め、迅速にし、学級規模を縮小させ、アカウンタビリティーや学力テストへの関心を高め、とりわけ顧客(生徒や父母)サービス、父母とのコミュニケイションの重視、さらに父母の学校参加を促進したという報告があった。教育上のインパクトとしては、CSの出現で新しい特別学校(specialty schools)や特別プログラムが組まれたり、組織構造の改革が実行されたことがあげられる。
Section 4
ワシントンD.Cを含めて37のCS法が既に成立し、各州はそれぞれ異なった導入の背景と政策意図を有している。CS法が何を許容し、何を規制しているかは、州によって多様である。
A、CSに課された役割は、例えばCS以外の公立学校に競争原理を導入するとか、他の公立学校のモデルとして機能させる、あるいは危機的な状況に立たされている生徒あるいは学校に選択の機会を拡充するなど、州当局が何を重視するかによって異なる。
- ミシガン、アリゾナの両州のCS法は共通点が多い。新設校、公立または私立校からの転用(conversion)を認め、州、学区当局のみならず他の団体(法人)もCSの認可権を持つ。
また州レベルでのCS数の上限は特に定められていない。
- 両州の学区の管理者たちは、CSの出現は互いに競争を激化させるとして、ネガティブな見方が支配的である。ちなみに、学区がCSを認可した例は、2州の調査学区全体の14%にすぎない。
- コロラド(CO)、カリフォルニア(CA)は,AZ、MIとは異なる類似性が見られる。両州は学区が唯一のCS認定機関で、しかも私立学校の転用は認めていない。
- COの場合、大部分のCSは新設校(転用校は10%)であり、一方CAの場合、CSの約半数(43%)は公立学校からCSへの転用校であった。学校が受け取る費用は、学区を通して支給される(学区保留分はCAでは生徒一人当たり3%だがCOでは10%)。
- 両州の学区管理者のほとんどは、有効な選択肢としてCSをポジティブに評価しており、ネガティブな評価は見られなかった。
- マサチュウセッツ(MA)州のCS政策は他州と比べて慎重である。州全体のCS数の上限を50校と限定し,CO,CAと同様私立学校からの転用は認めず、しかも公立校からの転用は学区のみが認定できる制度である。その場合、学区はCSのプログラムの計画・実施課程をモニターし、その成果に対する責任を負わされている。CSの新設は直接州教育省の権限であり、州の専門官による厳格な評価と支援策がとられ、その成果に対する責任を負わされる仕組みになっている。
- MAの場合、学区当局の管理職の意見は積極的肯定論、ネガティブな否定論の二つに約半分ずつに分かれている。
- MAのCS法では、CSの4分の3は州当局が認定することになっている。
☆ 財政上の問題 ☆
この調査で明らかになった学区当局側の問題は、CSが新設されることによる予算配分の問題である。特に、AZ,MIの両州でネガティブな反応が見られた。それは、各州が独自に制定する(CSの設置について定めた)CS法の諸規定によって、予算配分が決定されるという制度の問題に帰着するのである。
その第一の要因は、CSの認定権を有する機関(granting entity)はどこかという点である。結局、学区当局がCS認定権を有しているかどうかであり、当然予想されるように、学区以外の機関の場合その属する学区の不満が高かったのである。すなわち、学区以外の機関に認定されたCSの学区全体の52%が、予算配分に不満(negative impact)を持っていた。学区が唯一の認定機関であるCOやCAでは、過半数(60%)が「影響なし」(no impact)と報告している。第2の要因は州から配分される教育予算の流れ(flow)である。AZ、MIの場合、州の補助金は直接個々のCSに分配されるが...
Section 5
CSは果たして学区当局にとって、挑戦(競争原理の導入)なのか、チャンス(選択権の提供と学校改善の促進)なのか?いずれかの選択を迫られている。その方針決定(オリエンテーション)はそれぞれの学区の実情によって、またその州のCS法がどう規定するかによって異なる。
A、学区にとって‘挑戦’もしくは‘チャンス’とは?
- 49学区の24学区(49%)の学校管理者はCSの出現を‘挑戦’と受け止めている。すなわち,CSは学区と学区の学校間の競争を生み出したと見ている。この場合、競争とは各学校が互いに競争意識を駆り立て,CSと対抗してともに児童生徒を引っ張り合うことである。
- 現在それほど競争は起こってないが、将来、脅威もしくは挑戦的な存在になるという見方もあった。
- CSは悪化した学区の教育条件をさらに悪くすると考える学区もある。予算の削減、経営縮小をCSの出現のせいにする管理者もあった。
- CSは確かに選択肢を多様化したが、選択機会の増大化自体が挑戦であり、脅威となっているという意見もある。
- 49学区中25学区(51%)の学校管理者ははより積極的に、チャンス(opportunity)と評価している。
- CSは子どもや父母により一層の選択肢(choice option)を提供している。CSは父母が学校運営に参加する新たな途を求める親の要望に応え、特に危機的状況に置かれた子どもやよく別なニーズを持つ子どもを指導し、学区によるさまざまなプレッシャーから解放したという人も多い。
- CSは学区の教育改革の起爆剤(impetus)となっているという見方もある。
- 学区当局者のなかには、CSやCSの成果を比較の基準として活用し、学区内の他の学校が自分たちの教育プログラムや生徒や父母との関係を再評価するよう指導していると答えた者もあった。
- CSを可能性に満ちた学習資源(potential source),もしくは教育革新の実験室(laboratory for innovation)と考えている学区もあった。
- 少数ではあるが、学区の中にはCSを学区の改革努力の一つと考え、学区内のCSを一層増加させる施策を採っている事例もあった。いずれも、CSは父母や学区にとって、可能性に満ちた実験校であり、学区内の教育改革の引き金になると考え、結局教育目標をより有効に達成するチャンス、生徒のニーズにより合った教育実現のチャンスと捉えている。
B、チャーター認定機関と就学数の動向
学区の教育施策を方向付ける要因として、(1)就学動向(Enrollment trend)(2)学区の規模(District size)(3)CSの認定機関(Charter granting entity)の範囲の3つがあげられる。調査によれば、就学者数が減少化傾向の全学区、及び小規模学区の67%の行政責任者は、CSを脅威もしくは挑戦と受け止めている。学区当局以外の認定機関を置いている学区の62%でもCSを挑戦と見なしていた。逆に、就学者数が上昇し、学区が唯一のチャーター認定機関である学区のほとんどでは、CSをチャンスと見なしている。
学区のCSイメージと学区へのインパクト
学区内での変化
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挑戦
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チャンス
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1.中央当局の運営 |
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○ 事務量の増加(32) |
58.3 |
72.0 |
○ 中央当局のサービスの変化(13) |
33.3 |
20.0 |
2.説明責任とオートノミー |
|
|
○ 説明責任の増大(10) |
25.0 |
16.0 |
○ テスト得点への関心高まる(17) |
45.8 |
24.0 |
○ 成績をCSと比較するようになった(35) |
79.2 |
64.0 |
○ 自由度の拡大:現場本位の学校経営(6) |
8.4 |
16.0 |
3.広報・父母の学校参加 |
|
|
○ 市場競争の拡大と広報重視(20) |
70.8 |
22.0 |
○ 父母とのコミュニケイションを重視(19) |
54.2 |
24.0 |
○ 顧客サービスの重視(22) |
66.6 |
24.0 |
○ 父母の参画の拡大(10) |
25.0 |
16.0 |
4.学校人事 |
|
|
○ 職員採用方針の変化(3) |
8.3 |
4.0 |
○ 校務分掌の変化(8) |
29.2 |
4.0 |
5.学区の教育施策 |
|
|
○ 新しい教育プログラムの開発(24) |
58.3 |
40.0 |
○ 新設校の開校(10) |
25.0 |
16.0 |
○ 組織機構の改革(9) |
16.7 |
20.0 |
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