チャーター・スクールの現状 :第3年度報告書概要

 1991年、ミネソタ州で全米初のチャーター・スクール法が制定され、翌年、第一号のチャーター・スクールが誕生して以来、チャーター・スクール運動は年々急速に拡大の一途をたどり、1999年9月の時点で、37州とワシントンDCが立法化し、その数はおよそ1700校に達し、約35万人の児童・生徒が新しいスタイルの学校で学んでいるといわれている。この数字は、教育改革センター(Center for Education Reform-CER)の調査結果であるが、大学の研究所その他の民間研究機関もそれぞれ研究プロジェクトを有し、それらがインターネットによるネットワークを形成して、リンクし合っており、今日チャーター・スクールについての情報はいつでも、どこでも入手可能で、その量は実に膨大である。
 この新しい学校改革の"うねり"の中で、連邦政府教育省はこの学校改革の動きに特段の関心を示し、連邦議会の勧告をふまえ、1995年から調査を開始し、全米チャーター・スクール調査研究(The National Study of Charter Schools)4年研究(the four- year study)プロジェクトの一環として、1997年に第一次報告書、翌年、第2次報告書を刊行したのである。
本稿は、合衆国教育省が1999年5月に刊行した、「チャーター・スクールに関する全米調査」(3年度報告書―1999年)の主要部分を抄訳し、日本の関係者がチャーター・スクール運動をより実証的に理解するのに有益な情報を提供しようとしたものである。チャーター・スクールに関する前述のCERの調査結果とは別に、連邦教育省挙げて独自に計画された、しかも、大規模かつ総合的調査研究の成果であり、日本人研究者として大いに注目したい報告書である。なお第2年度報告書の全訳が刊行されているので、併せて、参照されたい。

平成11年9月10日 湘南教育文化研究所   菊地 英昭  

序文
第三次報告書の概要
A.チャーター・スクールをめぐる各州の動向
B.チャーター・スクールの基本的特性
C.チャーター・スクールに学ぶ生徒
翻訳後記


本報告書の原文
The State of Charter Schools,Third-Year Report, National Study of Charter Schools, Office of Educational Research and Improvement, U.S.
Department of Education, May 1999
http://www.ed.gov/pubs/charter3rdyear/A.html

1,本研究の観点

 主に、次の三つの研究課題を設定している。
2,調査方法
本研究は、(1)CSの全てに渡る電話による悉皆調査を毎年実施し、(2)CSとその周辺学区のサンプルを抽出して、現地調査を繰り返す(3)サンプル校におけるアチーブメント・テストを定期的に実施する(4)学区、州レベルのCSと一般公立学校の生徒の評価資料を収集する(5)各州のCS法、州の当該機関の管理、運営手続き、裁判所の判例、教育政策一般を分析する(6)5州をサンプルにして、CS政策と各州各地方当局の施策が公教育にどう機能し、どう影響したかを事例研究する、という六つのアプローチからなる。
本報告書(三年度報告書)は主にCSの実施状況に限定し、併せて他の公立学校と比較してCSの特徴点を分析している。その他の課題については、次回最終報告書で扱うことになろう。
3,本報告書の構成
1)セクションA
CS運動を概観し、特に、州によってCS法の諸規定、CSの数、や開校時期が多様であることに着目し、CSの急速な拡大、発展を実証する。
2) セクションB
他の公立学校とくらべて、学校規模、学年構成、教員免許状を持った者の比率、コンピュータ1台あたりの生徒数などの指標によるCSの特徴点を抽出する。
3) セクションC
  CSに学ぶ生徒の統計上の特性分析、特に人種/民族構成比、低所得家庭出身の生徒、何らかの障害を持った生徒の就学状況、英語使用能力の極度に劣った(LEP)生徒の比率に注目する。
4) セクションD
  他の公立学校と比較して,CSは学校運営上いかなる特色を有するかを分析する。
例えば、CSの創設理由、実施上直面した問題点、重要な意志決定を任されるオートノミー(自主決定権)の実際、さらにCSが負うべき説明責任の取り方などである。
4,調査の方法 
本研究で得られた知見は、次の3つの資料に依拠している。第一に1997−98年に開校されているすべてのCS一つ一つの電話インタビュー、第二に全米の91地域を限定した現場視察/調査、第三に各州のCS法の詳細な分析である。1995―96年度の調査対象校は252校、'96−97年度はさらに178校加わり、第3年度の'97−98年度にはさらに284校の増加をみた。調査回答率は78%から91%の範囲内であった。

第三次報告書の概要(要約)

 チャーター・スクールと他の公立学校の大きな違いは、チャーターという州もしくは地方教育当局と締結する一種の契約書によって、一定の期間、公的資金が賦与されて学校を維持するという点である。この契約によって、チャーター・スクールは全ての公立学校に適用される法令規則に縛られることはない。そのかわり、生徒の学力向上とチャーターに明記された目標を達成するという責任が課せられる。

本報告書は1997−98年度に展開されたチャーター・スクールの活動状況に関する情報を提供している。これに続く第四次報告では、チャーター・スクール運動とそれがアメリカの公教育制度に及ぼす潜在的な影響、効果にかかわる広範な政策的諸問題を扱うことになろう。

1,急速な量的拡大

2,チャーター・スクールの特色

ほとんどのチャーター・スクールは、新たに設置された小規模校である。1997−98年度に開校したCSはさらに顕著で、それまでのCSよりも新設校が多く、一層小規模化している。

3,チャーター・スクールの生徒

全米的にみれば、CSの生徒は他の公立学校の生徒とくらべて統計上の差異はほとんど認められない。しかしながら、州によっては、マイノリティーや経済的に恵まれない家庭の生徒に重点をおいたCSもある。

4,チャーター・スクールの創設理由

ほとんどのCSは既存の学校とは違うもう一つの学校観(an alternative vision of schooling)を実現することを目指している。

5,チャーター・スクール運営上の課題

CSを開校し、実際に運営するに当たり、当事者は様々な困難な障害に遭遇する

6.自主決定権(autonomy)と説明責任(accountability)

CS、とりわけ新設校は、相当な自主決定権を有する。一般に、CSは標準化された会計報告と生徒の成績(学力到達度)の報告書を所定の機関に提出し、州のアカウンタビリティーの方針に従うことになっている。

A.チャーター・スクールをめぐる各州の動向

A―1、拡大の一途をたどるCS運動

CSは50州中33州にゆきわたり、公教育システムの一部門として定着している。
1991年全米最初のCS法が成立して7年が過ぎ、その間、CS法の数,CSの学校数いずれも急速に増加した。各州法はそれぞれ多様ではあるが、DCを含む34州は、州が規定する法令のすべて(もしくは一部)の規定に縛られない学校を認可し、独立法人としての権限を認め、そのかわり生徒の学習成果には厳しい責任(説明責任)を問うという州法を確立している。

A−2 各州のCS法

CSに関する州法の法令規則は、州によって多種多様であって、CS法を持つ34州はそれぞれ独自の制度化を進めているので、それぞれの州法には著しい相違がみられる。しかもCS法は時々改訂され、例えば1998年度だけでも6州でCS法の一部が抜本的に改訂されている。各州のCS法を検討する場合、ここでは次の5つの観点を設定した。
(1)誰がチャーターを認定するのか。
(2)新設校か公立または私立校からの転用(conversion)校か。
(3)上限を定めているか、もしくは無制限か。
(4)チャーターの更新までの有効期限は何年か。
(5)CSに勤務する教員の団体交渉権(collective bargaining)は認めるのか。
 1.認定機関
チャーターの認定機関の数や機関の種類、さらに不認定の決定に対する不服申し立ての機会等で、各州法の規定は様々である。
 2.新設校/転用校の認可
1997−98年度に開校しているCSのうち新設校は75%、公立学校からの転用は
19%、私立学校からの転用校は11%であった。
 3.CSの上限  4.チャーターの有効期間(更新までの期間)  5.団体交渉権

B.チャーター・スクールの基本的特性

1)州別在籍者数  2)学校規模  3)学年構成 4)学習用コンピュータの普及

B―1  就学者数

CSに学ぶ生徒の数は州によって多様で、KSの100人以下の州から、CAのように5万人以上という大きな格差がある。CSは、州の生徒人口規模に関係なく今後も公立学校全体のごく少数の割合で、生徒を収容していくことになろう。

B―2  学校規模

CS運動のもっとも顕著な特徴は大部分のCSは小規模校であるという点である。調査によると,CSの創始者、生徒の父母たちも小規模校が持つ学習環境に高い価値づけをし、小規模であることがCSを求める主な理由であると考えられる。

C.チャーター・スクールに学ぶ生徒

C―1 生徒の人種/民族構成、
C―2 学校全体の人種/民族構成 
C−3 給食費補助金の給付を受ける生徒の数
C―4 知的障害を持った生徒
C―5 英語能力が極度に劣る生徒

チャーター・スクール運動に関して懸念されることは、CSはエリート(選良)の学校で、他の公立学校より有色人種の比率が極度に低いのではという点であった。調査結果を見ると、実はCSの生徒は,学区ごとの白人生徒の比率とほぼ同じであった。CS全体の16%は周辺学区の、有色人種出身の生徒数の比率より高いパーセンテージを示しているが、学区の平均的な白人の占有率が20%以内にあるCSは kk
70%以上もあった。残りの12%のCSは、有色人種生徒の比率は他の周辺学区よりも低い占有率であった。

翻訳後記


教育省第三次レポートはまだまだ続くが、きりがないので、ひとまず翻訳をうち切りたい。
そこで、読者のために、本書の後半部分について、この調査で明らかになった注目すべき知見をいくつか抄訳して、チャータースクール運動を知る参考にしていただきたいと思う。

▼給食費補助を受ける生徒(比較的貧困な家庭出身者)が占める割合は、CSが37%、一般の公立学校で38%とほとんど変わらない。しかしながら、知的障害(disabilities)を持った生徒は、前者が8%、後者が11%という違いがあった。

★ CS創設の動機(以下全文翻訳)

チャータースクールを創設した理由はなにか?個々の回答はそれぞれユニークで多様ではあるが、一定の一般化、類型化は可能である。子どもたちの多様な学習環境を創り出したいという教師たち、親、地域住民のねがい(aspiration)からCSを始めたといえる(全体の4分の3)。創設者たちによれば、従来の公立学校では実現し得ないオールタナティブな学校観を追求している。特に、新設校の場合、自分たちが開発したい新しいカリキュラムや指導法や組織風土に関する報告が多かった。他方、既存の公立学校と私立学校からCSに転用した学校は、学校財政の安定化と独自の教育法に子供を引きつけることができるという理由が多数を占めている。一般の公立学校では"危機的な状態にある"(at risk)特定の生徒を指導するためにCSを創設したというのも多く、全体として,4校中1校の割合であった。
【 CSの創設理由(要因) 】

挙げられた要因比率

もっとも主要な要因と答えた比率

    全体 新設校 公立転用校 私立転用校
学校数 615 595 422 115 58
新しい教育観の具現化 73.0% 58.9% 67.5% 40.0% 34.5%
自主権/自由裁量性の確保 16.3% 10.3% 3.6% 38.3% 3.4%
特別なニーズを持つ生徒のため 26.2% 19.5% 22.7% 7.8% 19.0%
入学生徒の確保 10.2% 3.9% 1.9% 1.7% 22.4%
財政上の理由 8.6% 3.9% 0.9% 7.0% 19.0%
父母の参加 10.2% 3.6% 3.3% 5.2% 1.7%
【 自主的な決定権がどの領域でどれだけ認められているか 】
領域 学校 学区/CS認可機関
1,予算配分 76.3% 18.9%
2,設備/備品/教材の購入 91.1% 7.0%
3,年間教育計画 78.9% 18.8%
4,日課表(時間割)  95.3% 2.4%
5,生徒の学力測定/評価施策 76.6% 16.7%
6,入学者の選定  63.7% 26.9%
7,生徒の規律/指導 92.1% 3.9%
8,カリキュラムの企画 86.1% 8.8%
9,教職員の採用 89.3% 6.3%