1991年、ミネソタ州で全米初のチャーター・スクール法が制定され、翌年、第一号のチャーター・スクールが誕生して以来、チャーター・スクール運動は年々急速に拡大の一途をたどり、1999年9月の時点で、37州とワシントンDCが立法化し、その数はおよそ1700校に達し、約35万人の児童・生徒が新しいスタイルの学校で学んでいるといわれている。この数字は、教育改革センター(Center for Education Reform-CER)の調査結果であるが、大学の研究所その他の民間研究機関もそれぞれ研究プロジェクトを有し、それらがインターネットによるネットワークを形成して、リンクし合っており、今日チャーター・スクールについての情報はいつでも、どこでも入手可能で、その量は実に膨大である。
この新しい学校改革の"うねり"の中で、連邦政府教育省はこの学校改革の動きに特段の関心を示し、連邦議会の勧告をふまえ、1995年から調査を開始し、全米チャーター・スクール調査研究(The National Study of Charter Schools)4年研究(the four- year study)プロジェクトの一環として、1997年に第一次報告書、翌年、第2次報告書を刊行したのである。
本稿は、合衆国教育省が1999年5月に刊行した、「チャーター・スクールに関する全米調査」(3年度報告書―1999年)の主要部分を抄訳し、日本の関係者がチャーター・スクール運動をより実証的に理解するのに有益な情報を提供しようとしたものである。チャーター・スクールに関する前述のCERの調査結果とは別に、連邦教育省挙げて独自に計画された、しかも、大規模かつ総合的調査研究の成果であり、日本人研究者として大いに注目したい報告書である。なお第2年度報告書の全訳が刊行されているので、併せて、参照されたい。 |
平成11年9月10日 湘南教育文化研究所 菊地 英昭
序文
第三次報告書の概要
A.チャーター・スクールをめぐる各州の動向
B.チャーター・スクールの基本的特性
C.チャーター・スクールに学ぶ生徒
翻訳後記
本報告書の原文
The State of Charter Schools,Third-Year Report, National Study of Charter Schools, Office of Educational Research and Improvement, U.S.
Department of Education, May 1999
http://www.ed.gov/pubs/charter3rdyear/A.html
1,本研究の観点
主に、次の三つの研究課題を設定している。
- CSはどのように遂行されているのか
- (成功例があるとするなら)それはいかなる条件の下で生徒の学力改善が達成されたか
- CSは公教育全体にどんなインパクトをもたらしているか。調査で得られた知見から、さらに広範な政策課題に言及している。
- CSは、他の一般的な公立学校でも活用できる教育モデルを提供しているのか。それはどんなモデルか。
- 公教育としてのCSの諸経験から学ぶことは何か。州や連邦レヴェルの施策上、いかなる意義を引き出せるか。
- CSは間近に迫る21世紀にいかなる展開を示すか。
2,調査方法
本研究は、(1)CSの全てに渡る電話による悉皆調査を毎年実施し、(2)CSとその周辺学区のサンプルを抽出して、現地調査を繰り返す(3)サンプル校におけるアチーブメント・テストを定期的に実施する(4)学区、州レベルのCSと一般公立学校の生徒の評価資料を収集する(5)各州のCS法、州の当該機関の管理、運営手続き、裁判所の判例、教育政策一般を分析する(6)5州をサンプルにして、CS政策と各州各地方当局の施策が公教育にどう機能し、どう影響したかを事例研究する、という六つのアプローチからなる。
本報告書(三年度報告書)は主にCSの実施状況に限定し、併せて他の公立学校と比較してCSの特徴点を分析している。その他の課題については、次回最終報告書で扱うことになろう。
3,本報告書の構成
1)セクションA |
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CS運動を概観し、特に、州によってCS法の諸規定、CSの数、や開校時期が多様であることに着目し、CSの急速な拡大、発展を実証する。 |
2) セクションB |
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他の公立学校とくらべて、学校規模、学年構成、教員免許状を持った者の比率、コンピュータ1台あたりの生徒数などの指標によるCSの特徴点を抽出する。 |
3) セクションC |
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CSに学ぶ生徒の統計上の特性分析、特に人種/民族構成比、低所得家庭出身の生徒、何らかの障害を持った生徒の就学状況、英語使用能力の極度に劣った(LEP)生徒の比率に注目する。 |
4) セクションD |
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他の公立学校と比較して,CSは学校運営上いかなる特色を有するかを分析する。
例えば、CSの創設理由、実施上直面した問題点、重要な意志決定を任されるオートノミー(自主決定権)の実際、さらにCSが負うべき説明責任の取り方などである。 |
4,調査の方法
本研究で得られた知見は、次の3つの資料に依拠している。第一に1997−98年に開校されているすべてのCS一つ一つの電話インタビュー、第二に全米の91地域を限定した現場視察/調査、第三に各州のCS法の詳細な分析である。1995―96年度の調査対象校は252校、'96−97年度はさらに178校加わり、第3年度の'97−98年度にはさらに284校の増加をみた。調査回答率は78%から91%の範囲内であった。
第三次報告書の概要(要約)
チャーター・スクールと他の公立学校の大きな違いは、チャーターという州もしくは地方教育当局と締結する一種の契約書によって、一定の期間、公的資金が賦与されて学校を維持するという点である。この契約によって、チャーター・スクールは全ての公立学校に適用される法令規則に縛られることはない。そのかわり、生徒の学力向上とチャーターに明記された目標を達成するという責任が課せられる。
本報告書は1997−98年度に展開されたチャーター・スクールの活動状況に関する情報を提供している。これに続く第四次報告では、チャーター・スクール運動とそれがアメリカの公教育制度に及ぼす潜在的な影響、効果にかかわる広範な政策的諸問題を扱うことになろう。
1,急速な量的拡大
- 1998年に364校のCSが新たに設置され、全米で27州とワシントンDCで、併せて1050校のCSが稼働している。但し、同一のチャーターでいくつかのCSが分校化している個々の学校を個別に数えると、1998年9月の段階でその数は1129校に達している。
- CSを希望する人の数は高く、10校中7校が予約申し込み名簿(waiting list)を持っていると報告している。
- 1997―98年度中に、13校のCSが閉鎖に追い込まれており、1992年以来閉鎖したCSの総数は32校となった。これはCS全体のほぼ3%にあたる。
- 1997−98年度中にCSに通学する生徒は50000人増加し,CSの生徒総数は1998年6月の時点で23州とDCだけで160000人に上り、これは公立学校全体の0.6%にあたる。
- 1998年度中に、4州(ID、MO,VA、UT)でCS法が議会で採択され成立したので、CS法を有する州は33州とDCとなった。そのうちいくつかの州ではCS法を改正し、「認定されるチャーターの上限を増加させた」(2州)、「チャーターを認定する機関を拡げた」(2州)「既存の公立校からの転用しか認めなかったのを、新設校も認めた」(1州)、「CS運営資金の補助金を制度化した」(2州)「更新までの契約期間を延長した」(1州)等の改善がなされた。
2,チャーター・スクールの特色
ほとんどのチャーター・スクールは、新たに設置された小規模校である。1997−98年度に開校したCSはさらに顕著で、それまでのCSよりも新設校が多く、一層小規模化している。
- 一般の公立学校の一校あたり平均生徒数は486名であるのに対して、CSの場合は132名である。第2次報告(1996−97年度)では149名であった。
- 学校の学年構成には定型がなく、さまざまな学年グループのCSが多い。公立学校の一般的な類型にあわないK―12,K―8とか無学年制などのタイプは、一般の公立学校では1割以下であるが、CSの場合は4校中1校とその比率が高い。
- 1997−98年度中に開校されたCSの7割は新設校であった。この数字は前年度より1割多い。また、新設校はいずれも公立学校からの転用校より小規模である。33州のうち9州は、私立学校からCSへの転用を認めている。実際に私学からCSへの転用校はCS全体の11%を占める。ほとんどのCS教師は教員免許を有しているが、教員免許、資格を義務づけていない州では、それ以外の州のCSよりも免許資格を有する教員の数は少ない。
- コンピュータ一台あたりの生徒数をみると、一般の公立学校では1:6であるが、CSの約3分の2では1:10とはるかに低い。
3,チャーター・スクールの生徒
全米的にみれば、CSの生徒は他の公立学校の生徒とくらべて統計上の差異はほとんど認められない。しかしながら、州によっては、マイノリティーや経済的に恵まれない家庭の生徒に重点をおいたCSもある。
- CSが主に白人や経済的に恵まれた家庭出身の生徒を対象にしていることを実証するデータはない。
- 1997−98年度では、白人はCSの就学者全体の約52%を占めるが、公立学校全体ではその比率は58%である。この数字は1996−97年度でも同じである。
- CT,MA、MI,MN,NC,TXなどの州のCSの場合、白人以外の有色人種の生徒の占有率は、その州の他の公立学校の平均よりはるかに高い。
- CSの10校中7校は、近隣学区の民族/人種構成比では違いはない。CS全体の16%の学校では、近隣の学区より有色人種の占有率が高い。
- 英語の基礎能力に欠ける生徒(LEP)はCSでは10.1%(1997−98年度、前年度は12.7%)だが、CSが実施されている23州(およびDC)の他の公立校全体では約10.7%であり、大きな差異は認められない。
- 学習障害のある生徒の比率は、公立学校全体では11%で、CSの場合8%である。
4,チャーター・スクールの創設理由
ほとんどのCSは既存の学校とは違うもう一つの学校観(an alternative vision of schooling)を実現することを目指している。
- 新設のCSのほぼ7割の学校は、オールタナティブな学校観の実現を目指す。残りの2割は、特別のニーズを持った特定の生徒を教育する目的で設置された。転用した公立学校の4割は、学区や州の法令に縛られない自主権(autonomy)を手に入れるためにCSに転換した。
- CSに転じた私立学校の多くは、学校財政の安定化と生徒を集めるために、公的資金を得ることが目的だった。
5,チャーター・スクール運営上の課題
CSを開校し、実際に運営するに当たり、当事者は様々な困難な障害に遭遇する。
- ほとんどのCSが一致して挙げる最も深刻な問題は、財政上の制約すなわち、施設、設備を含む財源不足である。
- とりわけ、新設校の場合は深刻である。
- 公立学校から転用したCSのうち、10分の3のCSは、州もしくは学区の教育委員会の反発や法的規制が実施上の障害となっていると報告している。また、公立学校からの転用校のうち5分の1のCSは教員組合、団体交渉の協約が大きな壁になっていると報告している。
6.自主決定権(autonomy)と説明責任(accountability)
CS、とりわけ新設校は、相当な自主決定権を有する。一般に、CSは標準化された会計報告と生徒の成績(学力到達度)の報告書を所定の機関に提出し、州のアカウンタビリティーの方針に従うことになっている。
- 大部分のCSは、学校経営(administration)の重要な領域のほとんどを自主的にコントロールする権限が賦与されていると感じている。しかしながら、生徒の入学、予算、学力評価、年間学校行事などの自主的決定権が与えられていると感じているCSは、はるかに少ない。新設校と比較すると、公立転用校の場合、自主管理権が与えられているという認識は低い。
- ほとんどのCSでは、授業以外のサービス(健康・保健サービス、社会奉仕、早朝もしくは放課後の課外指導を取り入れている。新設校10校中3校は、サービスは学校独自で実施しているが、残りは当該学区や外部団体が提供するサービスを受ける。公立転用校の場合、6割のCSは学区当局の施策に依存し、私立学校からの転用校は、自前のサービスと外部団体サービスとほぼ半々である。
- CSの9割が会計帳簿上の監査と説明責任が課されている。7割のCSで生徒の成績と出席状況の監査を義務づけられ、6割のCSでは法令規定と教育活動の整合性の審査が課されている。
- 州によって説明責任の方策は大きく異なる。"集権化された"州機関によるアプローチ、市場原理に基づく(market driven)アプローチ,州テストの枠内での地方のアカウンタビリティー政策に基づく"学区を基礎とした"アプローチなどがある。
- CSの80%以上の学校が、1997−98年度にアカウンタビリティーのための報告書を、チャーター認可機関、教育委員会,州教育局、父母、地域住民、或いは個人の寄付者など1機関(団体)もしくは複数の所定の機関に提出した。
- 90%以上のCSは、生徒のアチーブメント・テストを実施し、併せて生徒の学習成果(performance)や学校の成果を、チャーター認可機関、教育当局、もしくは父母会に報告した。
A.チャーター・スクールをめぐる各州の動向
A―1、拡大の一途をたどるCS運動
CSは50州中33州にゆきわたり、公教育システムの一部門として定着している。
1991年全米最初のCS法が成立して7年が過ぎ、その間、CS法の数,CSの学校数いずれも急速に増加した。各州法はそれぞれ多様ではあるが、DCを含む34州は、州が規定する法令のすべて(もしくは一部)の規定に縛られない学校を認可し、独立法人としての権限を認め、そのかわり生徒の学習成果には厳しい責任(説明責任)を問うという州法を確立している。
- 1998年9月現在、34州がCS法を議会で通過させ。1996年はCS法を有する州の数が急激に増え、8州でCS法が成立した。
- ID,MO、VA,UTの4州は、1998年秋、CS法を議会で可決成立させた。
- IDの最初のCS2校はその年の9月に早速開校し、MOのCS第一号は1999年秋開校を目指して準備中である。
- 1998年の時点で、28州でCSが既に開校している。AR、NH、WYの3州では1995年にすでにCS法が成立しているが、未だ開校されたCSは一校もない。
- 全米最初のCSは1992年にオープンして以来その数は急速に増大し、1998年9月開校したCSは361校であった。CSの需要は依然として高く、就学希望者リストを有する学校は全体の70%に達している。
- 1998年9月現在,CSの総数は1050校で、アリゾナの"分校(branch)"を含めると、1129校となる。
- CSの州別分布をみると、CA,MI,AZの3州でCS総数の44%(457校)を占める。
- 12州では15校以下しかない。
- 1998―99年度初めの時点で、閉鎖されたCSはCS総数の約3%(32校)
A−2 各州のCS法
CSに関する州法の法令規則は、州によって多種多様であって、CS法を持つ34州はそれぞれ独自の制度化を進めているので、それぞれの州法には著しい相違がみられる。しかもCS法は時々改訂され、例えば1998年度だけでも6州でCS法の一部が抜本的に改訂されている。各州のCS法を検討する場合、ここでは次の5つの観点を設定した。
(1)誰がチャーターを認定するのか。
(2)新設校か公立または私立校からの転用(conversion)校か。
(3)上限を定めているか、もしくは無制限か。
(4)チャーターの更新までの有効期限は何年か。
(5)CSに勤務する教員の団体交渉権(collective bargaining)は認めるのか。
1.認定機関
チャーターの認定機関の数や機関の種類、さらに不認定の決定に対する不服申し立ての機会等で、各州法の規定は様々である。
- 認定機関は各学区の教育委員会のみ−AK,KS,LA,PA,VA,WI,WY
- 学区教委の決定に不服なら州教委その他の機関に上訴できるーCA,CO,FL,ID,IL,MO,NH,SC
- 認定機関は州教委のみーAR,GA,HI,NM,RI,UT
- 州教育長のみ認定権を有す−NJ
- 学区教委、州教委の認定を要すーCT,NV
- その他の10州は学区、州教委も含む各種機関が認定できる。
2.新設校/転用校の認可
1997−98年度に開校しているCSのうち新設校は75%、公立学校からの転用は
19%、私立学校からの転用校は11%であった。
- 私立学校からの転用校が、CS全体の5分の1を占める州−AZ,MI,NC,TX
- 新設校の比率は年々増加し、1994−95年度は53%であったのが、1997−98年度は84%に上昇した。
- すべての州が、既存の公立学校からCSへの転用を認めている。
- 新設校は認めない−AR,MS,NM
- 既存の私立学校からのCSへの転用を認める−AZ,DC,MI,NC,PA,SC,TX,WI
- FLのCS法は、私立学校が直接CSを申請することは禁じているが、その私立校がいったん解散し、新しく再組織されて、就学者を公平なくじ引きで決定するという条件なら転用を認めている。
- ILの場合、私立学校がCSの認可申請を出す前に、私学としての経営を停止する事を義務づけている。
- WIでは、私立学校のCSへの転用は、ミルウオーキー市のみ認めている。
3.CSの上限
- 34州中16州は州レベルのCSの数を制限しない。
- 18州では、CSの絶対数、学区内のCS数、または年間の認定数に上限を設定。
- 州レベルのCSの上限が9校以下の州−MS,NM,UT
- CAでは1997−98年度に、上限が100校から250校に引き上げられ、その後毎年100校ずつ増加させることになった。
- IDのCS法は州全体の上限を60とし、年間12校以下に押さえている。
- NHでは2000年までに毎年10校ずつ増やしていく計画である。
- TXの場合、学区認定のCSは上限がないが、州認定の学区外選択可能なCSは120校を限度とする。少なくともドロップアウトの生徒、その他の危険な状態に置かれた生徒が少なくとも75%以上就学するCSに限り上限はない。
4.チャーターの有効期間(更新までの期間)
- CS法は、チャーターに定められた期間を過ぎたら更新するように義務づけている。
- 平均的な期間は3〜5年で、もっとも長いのがアリゾナ州で15年である。
- MOでは、1学区内での校舎がぜんたいの5%を越えない程度に制限している。
5.団体交渉権
- CS法で団体交渉を認めていないのは、34州のうち4州(GA,NC,SC,VA)で、残り30州中22州では実際にCSを開校している。団体交渉権で守られている教員が勤めている学校数の割合が州全体で5割を越えているのは,AS(100%),AK、CA、HI(100%),KS(100%)、NM,RI(100%),WIの8州にすぎない。
B.チャーター・スクールの基本的特性
1)州別在籍者数 2)学校規模 3)学年構成 4)学習用コンピュータの普及
B―1 就学者数
CSに学ぶ生徒の数は州によって多様で、KSの100人以下の州から、CAのように5万人以上という大きな格差がある。CSは、州の生徒人口規模に関係なく今後も公立学校全体のごく少数の割合で、生徒を収容していくことになろう。
- 各州のCSの在籍者数を比較すると、1997−98年度のデータによれば、24州で678校のCSを集計すると、162130人が在籍していた。これは24州の公立学校全体の0.6%にあたる。
- CAはもっとも在籍者数が多く、24州の全CS就学者数の34%、州の公立学校生との1%、55、764人の生徒が在籍していた。
- CAに次いで在籍者の多いAZの場合、その数は25,128人で州の公立学校在籍者の3.4%を占める。この数値は全米で最も高い。他の25州の場合、州全体のわずか0。1%からぬ1.6%までの多様さを示している。
B―2 学校規模
CS運動のもっとも顕著な特徴は大部分のCSは小規模校であるという点である。調査によると,CSの創始者、生徒の父母たちも小規模校が持つ学習環境に高い価値づけをし、小規模であることがCSを求める主な理由であると考えられる。
□1997−98年度で、生徒数200人以下という小規模なCSはCS全体のおよそ65%を占めている。そのうち100人以下というCSが36%であった。24州の他の公立学校で、200人以下の学校は17%、100人以下がわずか8%であり、CS一校あたり平均在籍者数は132人に対して、他の公立学校は486人である。
□一般の公立学校の3分の1(36、2%)が600人以上の生徒数を誇る大規模校であるが、CSの場合わずか10.2%にすぎない。
□新設校はおしなべて小規模校である。公立校からのCS転用校の35%が200人以下の小規模校だが、新設校の場合、新設校全体の74%という高率であった。一校あたり平均在籍者数をみると、公立転用校が385名、私立転用校が125名に対して、新設校は111名であった。
□公立のCS転用校の35%は生徒数600人以上(大部分中等学校)であるのに対し、新設校はわずか4%である。
□CS全体の学校規模別分布状況をみると、新設校は、公立よりも私立からの転用校の分布とよく似ている。
B―3 多様な学年構成
どの年齢層を対象にするかは,週報が定める義務教育年限の範囲内で、CSの自由裁量に任されている。CSの約4分の1は,K―8,K―12もしくは無学年制(ungraded schools)という合衆国の伝統的な形に回帰している。
- 小学校、中学校、高校という伝統的な学校段階は、24州の公立学校全体で78%,CSの場合は52%である。
- K―8,K―12の学年構成は、公立学校全体でそれぞれ8%、2%にすぎないが、CSの場合は16%、12%と高い。
- K―3の年齢層を重点とする初等学校は、公立全体で6%,CSでは8%である。
- 全公立学校の15%はハイスクールだが、公立から転用したCSの25%はハイスクールである。一方、私学からの転用校は、他のタイプのCSに比べて、K−8、ミドル・スクール,K−12学年グループが多い。
B−4 有資格教員の有無
チャーター法によってCSは州の多くの法令規則に縛られないとされるが、CS法がCSにどの程度の自由を認めているかという点で、州によって大きく異なるのが教員資格の要件である。CSを導入した州全体の半分以上は有資格教員の採用を義務づけているが、その他の州では、無資格の教員を採用してもかまわないことになっている。
- 24州中14州が教員資格を義務づけている。そのうち、DL,LA、NC,PAの4州では有資格教員の割合は他の公立校より10%低い。
- 他の10州のCS法は教員資格を問わないか、教員資格要件に特に言及していない。その内,AZ,FL,IL,MA,TX,DCでは、その州の公立学校全体より有資格教員の割合は約10%低い。
B―5 授業用コンピュータ普及率
合衆国教育省の最優先教育課題7項目の一つが、西暦2000年までに、全米の学校の教室にインターネットを接続し、全ての生徒が機械操作能力を身につけること(technologically literate)である。公立学校はこの目標を達成するために、生徒が教室でアクセスできるように、コンピュータを配分しなければならない。しかしながら、チャーター・スクールは、他の公立学校とは違い、新しい組織体で財源に制約があり、コンピュータ設置やプログラムの導入までは思い通りに進まないのである。他方では、コンピュータを積極的に導入しているCSは驚くほどの数に上っており、その大多数はマルチメディアの機能を兼ね備えている。
- 1996−97年のコンピュータ一台あたり生徒数は、公立学校全体で10.0人に対して、CSでは9.8人である。
- 調査校全体の3分の2の学校では、一台あたり生徒数は10人以下であった。その平均値は6.0人である。
- CSの10校中6校が、4分の3以上の教室に学習用コンピュータを備えている。しかしながら、CSの15%の学校には学習用コンピュータを備えていない教室がある。
- コンピュータの台数に関係なく,CSの60%の学校では保有するコンピュータの4分の3は上級レベルの、多目的メディアに応用している。
C.チャーター・スクールに学ぶ生徒
C―1 生徒の人種/民族構成、
C―2 学校全体の人種/民族構成
C−3 給食費補助金の給付を受ける生徒の数
C―4 知的障害を持った生徒
C―5 英語能力が極度に劣る生徒
チャーター・スクール運動に関して懸念されることは、CSはエリート(選良)の学校で、他の公立学校より有色人種の比率が極度に低いのではという点であった。調査結果を見ると、実はCSの生徒は,学区ごとの白人生徒の比率とほぼ同じであった。CS全体の16%は周辺学区の、有色人種出身の生徒数の比率より高いパーセンテージを示しているが、学区の平均的な白人の占有率が20%以内にあるCSは kk
70%以上もあった。残りの12%のCSは、有色人種生徒の比率は他の周辺学区よりも低い占有率であった。
- 人種/民族構成を他の公立学校と比較する場合、ここでは二つの調査法を使っているが、いずれの方法でもCS生徒の中の有色人種出身者は、他も周辺学区の公立学校よりもわずかに高い比率であった。
- 生徒総数を計算の基礎に据えた場合、24州に限って、全公立学校の生徒に占める白人の比率はやく60%に対して,CSは52%とCS全体の半数をわずかに超える程度であった。
翻訳後記
教育省第三次レポートはまだまだ続くが、きりがないので、ひとまず翻訳をうち切りたい。
そこで、読者のために、本書の後半部分について、この調査で明らかになった注目すべき知見をいくつか抄訳して、チャータースクール運動を知る参考にしていただきたいと思う。
▼給食費補助を受ける生徒(比較的貧困な家庭出身者)が占める割合は、CSが37%、一般の公立学校で38%とほとんど変わらない。しかしながら、知的障害(disabilities)を持った生徒は、前者が8%、後者が11%という違いがあった。
★ CS創設の動機(以下全文翻訳)
チャータースクールを創設した理由はなにか?個々の回答はそれぞれユニークで多様ではあるが、一定の一般化、類型化は可能である。子どもたちの多様な学習環境を創り出したいという教師たち、親、地域住民のねがい(aspiration)からCSを始めたといえる(全体の4分の3)。創設者たちによれば、従来の公立学校では実現し得ないオールタナティブな学校観を追求している。特に、新設校の場合、自分たちが開発したい新しいカリキュラムや指導法や組織風土に関する報告が多かった。他方、既存の公立学校と私立学校からCSに転用した学校は、学校財政の安定化と独自の教育法に子供を引きつけることができるという理由が多数を占めている。一般の公立学校では"危機的な状態にある"(at risk)特定の生徒を指導するためにCSを創設したというのも多く、全体として,4校中1校の割合であった。
【 CSの創設理由(要因) 】
挙げられた要因比率 |
もっとも主要な要因と答えた比率 |
|
|
全体 |
新設校 |
公立転用校 |
私立転用校 |
学校数 |
615 |
595 |
422 |
115 |
58 |
新しい教育観の具現化 |
73.0% |
58.9% |
67.5% |
40.0% |
34.5% |
自主権/自由裁量性の確保 |
16.3% |
10.3% |
3.6% |
38.3% |
3.4% |
特別なニーズを持つ生徒のため |
26.2% |
19.5% |
22.7% |
7.8% |
19.0% |
入学生徒の確保 |
10.2% |
3.9% |
1.9% |
1.7% |
22.4% |
財政上の理由 |
8.6% |
3.9% |
0.9% |
7.0% |
19.0% |
父母の参加 |
10.2% |
3.6% |
3.3% |
5.2% |
1.7% |
- CSが開校して直面した実施上の困難点(阻害要因)の第一位は開校時点における資金不足、第二位は計画立案の要する時間不足、第三位に施設、設備の不備・不足が続き、以下順に、(4)学校運営費の不足(5)州もしくは学区教育当局の反発(6)学区の抵抗もしくは統制(7)校内の意志決定の手続きまたはその葛藤(8)州教育省の抵抗(9)保険衛生/安全上の規制(10)教員組合や交渉団体の反対(11)アカウンタビリティー(説明責任)が義務づけられていること(12)教職員の採用(13)団体交渉による協約(14)地域住民の反対(15)連邦政府の規制(16)教員免許状取得が義務づけられていること、等が挙げられている。
- 自主決定権(autonomy)と管理(control)の問題については、ほとんどのCSは、予算運用、設備・教材購入管理、教職員の採用等の学校経営や、カリキュラムや年間計画、一日の時間割、入学者選抜、校内規律、生徒の評価等教育プログラムの運営上の自主決定の権限を有していると報告されている。
- 新設のCSと転用校を比べると、前者は、意志決定すべての領域で主たる権限を与えられていた。
【 自主的な決定権がどの領域でどれだけ認められているか 】
領域 |
学校 |
学区/CS認可機関 |
1,予算配分 |
76.3% |
18.9% |
2,設備/備品/教材の購入 |
91.1% |
7.0% |
3,年間教育計画 |
78.9% |
18.8% |
4,日課表(時間割) |
95.3% |
2.4% |
5,生徒の学力測定/評価施策 |
76.6% |
16.7% |
6,入学者の選定 |
63.7% |
26.9% |
7,生徒の規律/指導 |
92.1% |
3.9% |
8,カリキュラムの企画 |
86.1% |
8.8% |
9,教職員の採用 |
89.3% |
6.3% |