東京チャーター・スクール研究会
日時 2002年7月13日(土)
    13:00〜16:00
会場 上智大学 (四谷キャンパス)

チャーター・スクール運動の背景と最近の動向について

―カリフォルニア州ベイエリア地域の見聞を通して―

湘南教育文化研究所 菊地英昭

はじめに−研究の視点−
 10年目を迎えたチャーター・スクール運動の最近の傾向として、一つの学校経営団体が複数のチャーター・スクールを全米各地に次々と開設して、近隣の既存公立学校と児童生徒の獲得をめぐり競合しあうという大きな流れが指摘される。エディソン・スクールはその最も典型的な営利を第一義とする学校経営企業体で、今やその系列学校は117校に達しているといわれている。この種の営利を目的とする教育企業体が、教育当局との契約(チャーター)による公立学校の経営に直接参画する傾向は90年代に入って急速に増えている。いわゆる公教育の民営化(privatization)と呼ばれるこの動きは、アメリカだけにとどまらず、わが国の教育改革論議にも浮上しつつある。
 本来、チャーター・スクール運動の担い手というのは、多くの文献が示しているように、企業経営のマネージメントの専門家、教育行政のエキスパート、大学の教育研究者といったアカデミックな理論家とは異なる、各地“草の根の”父母や教師たちであった。各地方学区に所属する既存の公立学校に通う子どもが、指定された学校に「適応できない」「自分のこどもには合わない」「レベルが高すぎる(または低すぎる)」「安心して通わせられない」「子どもがやりたいことを学べない」といった不満や問題があるから、自分たちの理想とする学校をデザインし、「従来校とは違う、もう一つの(alternative)学校」すなわちオールタナティブ・スクールを立ち上げたのであった(Joe Nathan「Charter School」(1996))。
 しかしながら、10年後の今日、上述したように「民営化」の波がアメリカ全土に波及するにつれて、チャーター・スクールの担い手(申請者/学校運営の責任者)の階層は多様化し、様々な市民グループ、非営利の教育団体(法人)、教員組合、さらに教育行政や学校経営の専門家、さらに企業家グループ(営利法人)が参入してきている点が注目されるのである。同時に、学校の民営化は、従来の校務の意思決定と指導体制の中に父母や地域住民がボランティアもしくは入学の要件として参画することが期待され、実際に大きな成果を上げているように思われる。校務の民営化とも言うべき現象が起こっている。
 そこで、本発表では、以上の問題意識から、まずオールタナティブ・スクールとしてのチャーター・スクールの歴史的背景を概観し、次にカリフォルニア州のサンフランシスコ近郊、ベイエリア地域における新しい動きについて、現地で見聞した情報を元に考察してみようと思う。
1.チャーター・スクール運動の背景―オールタナティブ・スクール運動の原点
▼ 60〜70年代の状況―90年2000年代の状況
オールタナティブ・スクール(オールタナティブ教育)―ドロップ アウト/学習障害児/英才/登校拒否 →・・・・・・・・・・?          /ホームスクール(親の教育)

比較 どこが違うのか? 1990年代〜2000年代の特色
  • 公教育システムのなかに対等の立場を占める(公立学校として市民権→チャーター スクール法の成立)→ 従来の公立学校と共存・競合→ 緊張関係→ 従来校への刺激
  • School―Based –Management の考え方 ← シカゴ市教委の実践
    校長/学校評議会の権限(自由裁量域)拡大←学校現場主義(70年代の改革は大学教育学部(教授)を拠点にしたアカデミックな“改革論”主導であったが、現場の教師や父母が主役となった)
  • わが国のチャーター・スクール運動はフリースクール時代のサマーヒル型の自由教育を連想させるモノが多いが、米国の場合実はそれはごく一部に限られる。―→ 確かな学力形成/安心できる学校風土を求める親が多い。「Back To Basics」→ 「学校選択の基準」の変化→ アカウンタビリティーの要求
  • 連邦政府/州政府の行政指導/補助金 → 学校改善/学校改革/学校の成果(PERFORMANCE)の重視―→アカウンタビリティー政策→ 州規模の統一学力テスト
  • 情報環境の変化→ @インターネットの急速な普及でチャーター・スクール情報が全米に瞬く間に普及・拡大A各学校のホームページが競って開設され、顧客(父母)は学校比較ができるようになった。B学校開設が容易になった――企画/申請から開設に至る技術的ノウハウが、CER、Charter Friends など、様々な研究調査機関から無料で提供され、容易にアクセスできるようになった。
  • 親の意識―→ 学校運営への参加・参画
    • @パートナーとしての意識 A親の教育権/教育責任 Bわが子の入学する学校を選択するのは当然という意識―B自己選択には自己責任→父母/家族の学校運営参加を義務づける→ 校務の民営化! ?
    • ホームスクーリングの拡大(400万世帯以上!)
      ―“10年間のホームスクーリングでハーバード大学に合格”といったニュースなどで、学校運営者の意識が変わりつつある“(プレザントヒル市の或る母親の話)
2.今回の視察と雑感
―プレザントヒル市(Pleasant Hill)の概要―
 私のホストファミリーになっていただいた日系二世でJACEXの活動をボランティアで支えておられる山根氏(コンコルド市にオフィスを持つ実業家)の運転で案内していただいたベイエリア一帯におけるチャーター・スクール運動の一端を報告したい。(山根氏の奥様は特別養護学校の校長であり、Mrs.Yamane から紹介されたMrs.フェイス(ハワイ出身の日本人2世)はMrs.Yamaneの学校の同僚教師。実は、彼女は現在サン・カルロス市在住で、カリフォルニア州第一号のCS、サン・カルロス・チャーター・ラーニング・センター発足当初、ボランティアとして、学校運営に参画。当時の教育長、Donald Schalvey 氏とは発足当初から親しく、「今電話して紹介してあげる」といって、連絡が取れたのである。このダンさんこそ、最近アスパイア公立学校という新しいカリフォルニアのCS運動の提唱者である。現在,Eメイルで連絡を取り合い、サン・カルロス周辺の情報を提供していただいている。
 サンフランシスコを中心とした湾岸のいわゆる広大なベイエリアと呼ばれる地域は、カリフォルニア州では、ロサンゼルスと並んで最も人口が集中し、政治、経済、文化の中核ゾーンを形成している。ホームステイ先のプレザントヒル市も近年急速に都市化し、1983年に総合的な都市再開発プランが計画決定され、この4年間でシティーホールを中心に、新しいダウンタウンが建設され、サンフランシスコのベッドタウンとしてすっかり生まれ変わっている。オークランド、バークレー、さらにベイブリッジを渡ってサンフランシスコを抜けると湾岸にはミルブラウエ、サンマテオ、サンノゼ、シリコン・バレー(パロ・アルト)等の都市群が続き、いずれも人口増加地域で豊かな郊外都市(→white flight)を形成している。かって飛ぶ鳥を落とす勢いであったIT産業の起業家グループが集中するシリコン・バレーの、真新しいビル群は,近年また息を吹き返しているといわれている。
 湾岸地帯の各都市を結ぶバート(BART)と呼ばれる鉄道はベイエリアの動脈として、サンフランシスコの市街地に通勤する人々の重要な足となっている。最近、このバートはミルブラエ市からサンフランシスコ国際空港まで乗り入れる工事が進められ、今年中に完了するということで、当市は今地価が上昇し、目下空港の宿泊地としてあちこちにホテルを建築中であった(ヤマネ氏の自宅はこの町にあり、私は3日間ホームステイさせていただいた。その近所は英国系アメリカ人、韓国人、イラン人、サウジアラビア人、そしてフィリピン人と誠に国際色豊かであった)。
 今回の旅行で出会った人々の中で、湾岸地域のチャーター・スクール事情に関する様々な情報を提供いただいた方たちはつぎの通りである。
  1. Mr.Yamane
  2. Mrs.Yamane
  3. Mrs.Faith
  4. Pleasant Hill Middle School / 校長
  5. Mrs.Cohen 
  6. Pleasant Hill市長 Mr. David Durant

サン・カルロス学区の特色

所在地  826 Chestnut Street, San Carlos , CA 94070

1.サン・カルロス学区の特色
サン・カルロス市はサンフランシスコとサンノゼ(San Jose)のほぼ中間に位置する典型的な郊外都市で、人口は28、000人である。主に大都市の中産階級の家庭出身で、新たにこの土地に引っ越してきた人が多く、近年急激に人口が増えている新興都市である。人口急増のもう一つの理由は、この町の素晴らしい学校システムをあげる人が多い(市長の話)子どものニーズにあわせた様々なプログラムを揃えた特色ある学校群から、親が自由に選べるシステムが確立し、とりわけカリフォルニア州第一号のチャーター・スクールが設立されたことで広く知られている。学区には7校(小学校/中学校)あり、6校がチャーター・スクール方式に移行しており、学区外の生徒も受け入れている。
  • 州内の学力テストの得点は、常に州内のトップ5%以内を保っている。
  • 父母の教育関心が高く、学校運営に積極的に参加している
  • 革新的(innovative)教員に恵まれている
  • 小学校の教師一人当たり児童数は20名である
  • 学習とコミュニケイションの効果を高めるためにコンピューター・テクノロジーを積極的に導入している
  • 校内保育及び放課後の課外教育プログラムが充実
  • 特別なニーズを持った子どもの開発プログラム
  • 学校を取り巻く地域社会との連携プログラム
2.学区内の学校概要
  • 学区間学校選択の自由― 7校中6校が選択肢で、チャーター・スクールになっている
    小学校― Arundel(k-4) Brittan Acres(k-4) Heather(k-4) White Oaks(k-4)
    中学校― Tiera Linda(5-8) San Carlos C L C (k-8)
    ◇Central Middle School は唯一の伝統的な従来型のハイスクールである。
    生徒数は700名 (学区全体の園児・児童・生徒数 計―2600人)
  • San Carlos Charter Learning Center (CS)
    開校3年後で、その教育成果が認められ、カリフォルニア州の優秀校(Distinguished School)に選ばれ、教育改革のモデル校としてクリントン大統領夫妻、カリフォルニア州知事が視察したことで知られる。→ チャーター制ハイスクールは、市内に、Bay Area Charter High School (Aurora High.)がある。(後述)
  • 学区は学区内の学校を(親が)自由に選択できるシステム(Open Enrollment)を導入しており、学区外の子どもが志望しても、もしその学校に空きがあり、地元の学区当局が承認すれば入学を許可する。
  • 放課後の特別教育プログラムは民間の保育団体に委託して実施している(市内各小学校に設置)。その他、学校外での学童保育(offsite after-school programs)参加者には通学バスを提供している。
  • 当局によって割り当てられた学校( allocated neighborhood school )以外で、学区内の他の公立校を希望する場合は、近隣学校にまず申請して、学区内転校願い(Intra−district Transfer Request Form) を提出する。それが認められるのは、転校希望校に空きがある場合で、4月から5月頃に決定される。学区外からの受け入れ決定は学区内が固まった後である。
  • 6つのCSはそれぞれ、2002年の新学期(9月)に備えて、生徒獲得のために学校見学を企画し、市内の子どもで通学区域外の学校を希望する父母、子どもに積極的にPRしている。
  • 入学者選考の手法― SCCLC は2002年度から独自のくじ引き方式を採用、学区内の学校を複数選択可(それぞれ待機者リストをもち、くじ引きで決する)、但し、兄弟姉妹(sibilings)の場合は優先される。
3.サン・ カルロス ・チャーター・ラーニング・センター(SCCLC)
資料 http://scclc.sancarlos.k12.ca.us/about/vision3.xml
A Vision of the San Carlos Charter Learning Center
Prepared by members of the Charter Community
Donald Shalvy ; 元 教育長(サンカルロス学区)

特色
  • 1994年熱心な父母、教育者によって創設されたカリフォルニア州最初のチャーター・スクール
  • 1997年にクリントン大統領夫妻が同校を視察
  • the California Network of Educational Charters (チャーター教育カリフォルニア・ネットワーク
  • SCCLCは幼稚園から第8学年までのチャーター・スクール
  • 校内のスタッフ(教員・父母)によって開発された実践的な(hands-on)、プロジェクトを基礎としたカリキュラムを提供する
  • プロジェクト中心のカリキュラムに支えられたオールタナティブな学習環境の創出
  • 教職員・父母・生徒3者の連携による学校運営―保護者の参加(participation)が義務づけられる
  • 学校の始業前、放課後の子どもの保育(Educare)プログラムを提供している
  • 最新の教育技術・研究成果を取り入れた実験教育→従来校のイノベーションによる刺激
  • 地域団体や企業の参画を積極的に奨励
4.the Red Wood City School District
(北カリフォルニア、サンマテオ学区に属する当市は、人口76600人で、人種構成は白人65,8%、ヒスパニック系24.1%その他アジア系6%、アフリカ系3,4%の、典型的な上流中産階層の郊外都市。しかしながら、1990年にマイノリティーの児童生徒数は59,1%であったが、10年間で70,7%に増加している。k−8の初等教育機関(17校)を管理している。ただし例外として、後述のBACH(Aurora High School=Bay Area Charter High School)は、サンカルロス市に1999年設置されたCSで、9−12学年で学区が認可機関となっている。
  • 学区の特色
    All Redwood City School District schools are Magnet Schools of Choice

    レッドウッド市内すべての学校(16校/k−5,6,8)が自由選択制で、マグネットスクールシステムになっている。これは、CSではないが、学校区を撤廃して、父母が自由に選択できるようになっており、各学校はそれぞれカリキュラムに特色を持たせ、その魅力を高めて入学志願者を募集する。学校経営の責任は学区当局にあり、当局の法令に規制される。
  • 市内のすべての生徒はいずれかの学校を選択しなければならない。
  • 各学校の特色あるカリキュラム
    二カ国語教育(英語/スペイン語/)、海洋科学、理科・技術、コミュニケイション技術、舞台芸術、視覚芸術、数学・理科専科、オープン・オ−ルタナティブ、社会科学、宇宙科学、科学技術・・・・・
※ チャーター・スクールと従来校の差異は近年縮まっている。CS運動が急激に進んで、既存の従来校は安閑としておれない状況が発生し、全体として教育サービスの質的向上がはかられている。
※ 特に父母の参加(学校行事、校内での生活指導、サークル活動、最近では学校運営の意思決定、学校評議会への参加、課外セミナーの企画、実施、担任教師の助手など)が、契約時に義務づけられ、校務の民営化ともいうべき現象が起こっている(特にチャータースクールの場合顕著)。
5.Bay Area Charter High School
  • Sun Carlos, California 94070 (San Mateo County) / http://www.charterhigh.org (学校のホームページ)
  • 1999年開校された新設校(CAで209番目のCS)。Grades Served : 9th〜12th(100人以下)。
  • Redwood City District / Sequoia Union High School District 2学区内在住の生徒が主な対象で、SCCLC出身で継続して就学できるように設立されたCS。サンカルロス市は中等教育段階ではRedwood City School District の管轄になる。
6.アスパイアー・パブリック・スクール(Aspire Public School)
 3 Twin Dolphin Drive, Suite 200 Redwood City, CA 94065-1514 
              http://www.aspirepublicschools.org/
  • 新しいタイプのチャーター・スクールが出現
    アスパイアー公立学校(APS) は1998年、Donald Shalvey と Reed Hastings の教育界、実業界の二人の指導者によって設立された新しいタイプのチャーター・スクールのネットワーク組織である。ドナルド・シャルビーは、元サン・カルロス市教育委員会の教育長時代、カリフォルニア州で最初のチャーター・スクールをいち早く設立したことで広く知られている。後者は、シリコン・バレーの著名な起業家で、Net Fixの創始者である。州教育局主催の諮問委員会(Californians for Public School Excellence) で二人は知り合い、CSのさらなる普及を目指して州が決めるCSの上限枠の拡大を提唱し、州チャータースクール法の改正に貢献したといわれている。 APSのホームページによれば、今後,15〜20年間でアスパイアー・公立学校をカリフォルニア州の幾つかの主要都市を拠点にそれぞれ5〜10校づつ設立し、州内に合計 100校建設し、新しいタイプの公立学校ネットワークの組織化をめざすと書かれている。
  • 現在どんな学校があるか? (2002−2003)
    • University Public School (Stockton, CA / San Joaquin County)
      1999年9月開校/  k-5 / 生徒数(352名)チャーター認可機関―Lodi Unified School District  website : http://www.softcom.net/users/love/UPS.htm
    • Summit Charter Academy (2036 East Hatch Road, Modesto ,CA)
      2001年9月開校/ k−7 /356人 / Stanislaus County
      校長 ―― Cy Cole
      12年間公立/私立学校(コスタ・リカのアメリカン・スクール校長経験)で勤務
    • Monarch Academy ( 1445 101st Ave. Oakland, CA )
      2000年開校 / k−8 / 396人 / Oakland Unified School District
      校長 ― Ms.Kendra Barr 元 Sausalito学区k−8学校長(メンターティーチャー、多文化教育、評価委員会
    • New Secondary School (Oakland , CA)
      校名は未定。2002年に開校予定。
      校長
       ―Troyvoi Hicks
      サンタモニカ学区内でリードティーチャーとして活躍。南カリフォルニア優秀教員(outstanding teacher)に選ばれる。教会所属の青少年指導担当。
    • River Oaks Charter School (Stockton ,CA)
      2001年9月開校 / Lodi Unified School District 認可。  K−7
      校長  ―Lane Weiss (Lodi Unified School District で、20年以上勤務。元、中等局次長
      初等(5000人)中等(7000人)学校生とのカリキュラム、教育指導の監督責任者。コンピューター教育が専門で、教員研修の指導者として有名。1991年学区のTeacher of the Yearに選ばれる。1999年、「Floyd and Eva Dale Award」受賞。
    • East Palo Alto High School ( Menlo Park, CA)- San Mateo County
      2001年開校(第9学年のみ)−80名/ スタンフォード大学教育学部との連携事業 Ravenswood School District 認可。
      創立担当責任者 Ms. Nicole Ramos Beban 12年間公立学校国語(英語、スペイン語)教員。 スタンフォード大学教育学部 教師教育プログラムの指導者。新採用教員研修の指導にあたり、スタンフォード大学の教師教育に特別に貢献した指導者として「Laboskey Award」を受賞。「Coalition of Essential Schools」のベイエリア地区の評議員。
    • University Charter School( Modesto, CA) Stanislaus County
      1999年開校/k−5  /196人 ・Keyes Union School District 認可
      校長―MsVicky Peretz →Tesseract Network (有力な教育企業)グループの一つ、Sunray Charter (AZ)の元校長、指導教員、プログラム主任(director),ハイスクール科学教師歴任
  • アスパイアー・グループの経営システム
    • Don Shalvey
      Dr. Shalvey は小学校、中学校、ハイスクール、カレッジ、成人教育等にわたり、カウンセラー、学級担任、校長、副教育長などの職種を歴任して、30年以上公教育に奉職した。サン・カルロス学区は、2600人の児童生徒を抱え、小学校6校を管轄している。その教育長としての在任中に、CA最初のチャータースクールを認可し、有力な後援者となった。
    • チャーター・スクール経営起業グループ→ 11人のメンバーで構成する理事会(Board of Directors)5人の執行部によって運営される。両者はアスパイアーCSの基本方針を決定する機関。
    • 理事には、サン・カルロス教育委員長、スタンフォード大学教授(教育学)、弁護士、法律顧問、学区教育委員、実業家、不動産投資家、州議会議員、ベンチャーキャピタル、ハイテク企業家などが含まれる
  • APS設立の趣旨とその特色
    APSの基本ビジョン(コンセプト)
    To enrich students’ lives and reshape local public system

    APSのミッション
    • カリフォルニア州の多様な人種・民族出身のこどもの学力を向上させる
    • 力量のある教師を発掘する
    • 公立学校の改革の起爆剤となる(catalyze)
    • われわれの教育実践の成果を他の教育者と共有しあう
    ▼ 多様な人種、民族、宗教、年齢,性、国籍、学習障害、入学した学区当局、受けた教育プログラムの如何に関わらず、誰でも入学を申請できる。公立学校なので、地域の誰もが入学を志願することができる。入学に関して、差別されることはない。
    ▼ カリフォルニア州のどの学区区域に在住していても、志願できる。定員を超えた場合くじ引きで決める。
    ▼ 入学要件はない。授業料は徴収しない

    具体的経営方針
    • (適正規模)学校は小規模であること。小学校で350人、中等学校で420人が上限。
    • (適正学級規模)k−3で、20対1(教師一人あたり20人が限度)、4−12で、28対1。
    • (学級編成)異年齢混合学級(Multi-age classes)(heterogeneous grouping)/多学年制(multi-grade instruction)―学年の壁を越えた集団編成で、担任教師は持ち上がりで指導する。家族的で、親密なコミュニケイションを重視する→人間味のある学習環境→ 社会性/情緒的発達に有効(各種リサーチ)
    • (授業日数)従来の基準より15%増加。 Longer school day, longer school year
    • (カリキュラム)バランス重視の教育課程。基礎技能/思考力/ライフ・スキル(基本的生活習慣)← research-based curriculum
      ▼カリキュラム基準の徹底  ▼ 学際的な学習プロジェクト ▼ ハイテク機器の活用
    • (高度な専門性を身につけた教師) ▼ 教員採用過程の改善(coaching/mentorship) ▼ 現職研修の充実→新学期直前3〜6週間の長期研修/現場での新人研修/外部のワークショップ等への参加奨励▼成果に基づいた報酬(Performance-based compensation)→独自の昇級制度
    • (教育方法&評価)多様な教育方法の活用 ▼重層的評価(各教科/年度ごと)▼1対1のチューター制度、1対15のアドバイザー制度の導入←flexible support structure
    • 最新のテクノロジーの授業への導入←基本的コンセプト “こどもは能動的な学習者”“全てのこどもはハイテク機器へのアクセス権が保障されるべきである(accessibility to technology)”こどもの情報収集のしかた、ニーズ、学習スタイルは多様。こどもは協働して学ぶ”
      −教育機器に関する全米指導基準(the National Educational Technology Standards)の導入 @基本操作/基本概念A社会的、倫理的、その他世の中のトピックB機器の活用(伝達・表現)C機器を活用したコミュニケイションD機器を使っての調査(しらべる)E課題解決と意思決定
    • 親の学校運営参加  Parent involvement
      “Children learn best when parents are engaged in their education.”
      • 年度当初、生徒個々人は「Personal Learning Plan」(個人用学習計画表) を作成し、父母、教師、同級生(生徒主導の会議で協議)の署名(認定)をもらう。
      • 教師は父母と常に連絡を取り合い、生徒の進捗状況(到達度)を把握する。
      • 年間に数回、土曜日を利用して父母とこどもがいっしょに参加する特別授業を組む。
      • さらに、父母に対して、@家庭での読書(1日2〜30分)Aこどもの宿題をみてやるB特別の学習プロジェクトに参加するC学習を強化するゲームを子供と共に楽しむ、などを入学当初契約する。
    • 学校運営へのボランティア参画(INVOLVEMENT)
      子どもたちの父母のみならず家族の者、地域のボランティア、インターンの学生など誰でも学校の諸活動に積極的に参画することができる。
      1,授業助手として 2,学校事務局の運営上の支援 3,生徒の作品展示会などの審査員 4,生徒の父母代表として、人事上の(教員採用)意思決定に参画できる 5,学校の教育成果/スタッフの勤務状況(performance)の評価 6, 父母による学校美化部会/補助金・寄付増強部会などに参画し、特別行事等の計画にも自発的参加が奨励されている,
    • 学校と親との契約(学校が親に保障すること)
      • APSに在籍中は、こどもの学力が向上したことを実証する
      • 特別に企画された土曜日の授業を含めて、こどもの授業参観をオープンにする
      • 電話またはE−Mail等で、常時教師と連絡しあえること
      • 毎年、学校及び教員の教育成果を評定する機会を提供すること
      • 学校の基本方針について、校長に提言する権限を有する学校理事会(Advisory School Council)に出席・発言する機会が与えられること
    • 学校評価
      Balanced Scorecard( McKinsey & Company―国際的な経営コンサルタント会社―)
        Input Process Output
      生徒 e.g. 生徒人口統計 教授法 STAR 得点
      教職員 教員免許状取得 現職教育・研修機会 教員異動
      地域社会 父母教育
      学区のプログラム
      父母の特別奉仕活動 父母の満足度
      学区の施策転換


      第三者評価
      RPPインターナショナル→ 生徒の成績の到達度評価/親の満足度/教職員の満足度 1999〜2000年度実施

      ※ RPP International→Research, Policy, and Practice Emeryville, CA
      カリフォルニアに本部を置く著名な教育調査研究開発(R&D)会社
      20年前に設立。連邦政府教育省「The National Study of Charter School」調査報告書委託。
あとがき
 1970年代以来の学校選択を求めるアメリカにおけるオールタナティブ・スクール運動を概観し、チャーター・スクールの登場によって、既存の伝統的な公教育システムと共存することにより、全体としてどう変質したか(どんなインパクトを受けているか)を検討した。そのために、今回は、具体的事例をカリフォルニア州サンフランシスコの湾岸地域に限定して、視察・見聞の記録からその変容を考察した。
 サンカルロス市を中心とした地域の公教育事情は現在急激なオールタナテイブ化によって、学区全体に多大なインパクトを与えていること、とりわけ、父母、地域住民の学校参加が促進され、School-Based-ManagementとAUTONOMYの原則から、学校運営、学校評議会などの意思決定にも深く関わるようになってきたことが注目される。学校の民営化というこの国全体の動きの中で、本来学校(教職員)に任されてきた校務も民営化されつつあるという動向は、今後ますます強まっていくと考えられる。 

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