アメリカにおけるチャータースクール運動の動向

−アカウンタビリティーの観点から−

菊地 英昭

 

はじめに 

 

 本研究は、アメリカで1990年代に急速に拡大、発展しているチャーター・スクール運動について、最近の動向を概観し、現時点における最大の課題を学校評価、とりわけアカウンタビリティー(ACCOUNTABILITY)の問題として捉え、その意義と具体的な諸問題を検討してみたい。

 

 1,主題設定の背景

 

“ 学校が「教育の場」としての機能を失っている。...〈中略〉...先生たちが学校で生き生きとしていない。親たちが自信を失っている。地域社会がばらばらになってしまった。社会はめまぐるしく変化している。それなのに、学校の制度は変わることなく、子どもたちに勉強しろと強いている。いったいなぜ、勉強しなければならないのか?いったいなぜ、学校に来なければならないのか?そういった素朴な疑問に、大人の社会が答えられなくなっている(注1) “〈財〉社会経済生産性本部、社会政策特別委員会中間報告書より)。

 最近の中央教育審議会答申にもみられるとおり、わが国でもようやく教育の地方分権化、学校選択の自由化、教育の個別化が論議される時代を迎えている。冒頭の引用文は、筆者の知る限り、今日最も大胆な教育改革論の一つとされる序文からとったもので、まさに今日の学校問題の深刻さが象徴されていると思われる。

今求められているのは、もっと魅力に満ちた学校であり、多様化した子どもたちの学習へのニーズをもっと満たしてくれる特色のある学校を創出することである。

 アメリカでは1970年代にはいって、多様化した生徒、父母、地域のニーズに対応した新しい教育システムを求める運動−オルタナティブ・スクール運動−が、パブリック・セクターにおいて台頭し、様々な選択制度が各州で導入された。さらに80年代から90年代にかけては、チャーター方式による学校の設置と、学校を基礎とする(SCHOOL-BASED)、教師、父母たちの手による公立学校の経営という画期的な学校改革が展開されている。

 チャーター・スクール(以後「CS」と略す)と呼ばれるこの新しい学校については、これまで各種教育学会、論文等でさまざまに検討され、また新聞やテレビのメディアを通して、わが国にもかなり広く紹介されている(注2)。 筆者は1970年代以来のアメリカにおける学校改革運動に着目して研究を続け、昨年の日本教育制度学会で、主に学校選択のテーマでCSの意義を考察した。 (注3)現在進行中の多様な学校改革運動であり、すでに、1999年5月現在36州とコロンビア自治区(DC)でCS法が成立し、各州各様まさに百花繚乱の観があり、それを対象に正確かつ実証的に実態分析することは、現時点ではきわめて難しいといわざるを得ない。さらに加えて、CS運動の各種情報は近年のインターネットを活用して、州教育局、大学、その他の教育研究機関にCS専門のWeb-siteが次々と開設され、膨大な情報、資料が地球上どこでも容易に手に入る時代である。これを反映して、わが国でもCSの考え方は徐々にではあるが普及しつつあり、ジョー・ネイサン(Joe Nathan)の「Charter Schools(1996)の翻訳書を先駆として、最近ではアメリカ連邦教育省の「A NATIONAL STUDY OF CHARTER SCHOOLS」(2年次報告書),ハドソン報告書(一部)が翻訳されている。

 また、マスコミでも紹介されたように、日本の教育現場(神奈川県)からも、 “湘南にCS(新しい公立学校)を創ろう”といった草の根の学校改革の運動が2年前から精力的に展開されていることは注目されよう(注4)

 

2,主題設定の理由

 現在(1999年6月)まで、1400校を越えているとされるCS群のなかには、既に最初の契約期間を過ぎて、新たに更新した学校が数多くある。CSはその定義から、チャーターの申請者(applicants)たる教師、父母らの学校経営者は、そのチャーター認可機関(chartering authorities−州、地方学区の教育委員会、または大学等の認定機関)に対して、所定の期間内に成果報告を提出し当局の審査を受けて更新の手続きを終了しなければならないことになっている。評価・査定の段階で、そのチェックを通してチャーターに記載された条項に違反したと認められる場合、最終的にチャーターは解約され、学校は閉鎖されることになる。CER(Center for Educational Reform教育改革センター−後述)は全米のCSの動向に関する総合的な情報提供機関だが、その調査によると、1998年11月現在、全国に1128校のCSが確認され、そのうちの2,6%にあたる30校が実際に閉鎖されたと報告している。これを多いとみるか少ないとみるかはさておき、CS運動が万事順調にいっている訳ではないことを窺い知ることは出来る(注5)

 そこで、本研究では、チャーターの取り消しを受けた個々の学校の事例を先ず検討し、学校閉鎖という事態が一体教育経営上どういう意味があるのかについて考察し、学校を評価する場合、果たしてアカウンタビリティーの原理はどれだけ機能しているのか、さらに、今後のCS運動の課題を検討したい。

 

1,二つの調査報告書にみる学校閉鎖の事例

 

 連邦教育省(US DEPARTMENT OF EDUCATION)・OERIの二年度報告書(ANational Study of Charter Schools-Second Year Report)の報告(注6)では、1997年3月現在で確認された全国のCS712校のうち閉鎖した(された)学校数は19校であった。内訳は、AZ(10校),CA(5校),CO,MA,MI,MNの各州が1校である。また、19校の中で、12校が実際に廃校となり、7校は元の一般の公立学校に戻り(CA,AZ,CO各一校)、他のCSと合併するという事例(AZ)、州の要件に整合させるため一年間閉鎖し、次年度再出発を期しているという事例(MA)もある。いずれも、個々の学校によってそれぞれ実情は異なるが、19校中9校(AZ―3校,MI―1校,MN―1校)が自主的に閉校を決断したというのは注目に値する。

 さて、前述したように、CERが1999年の調査時点で確認したCSは1128校で、閉校数は30校であったが、CER報告書では30校全てに渡ってその閉鎖の理由が挙げられている。その内2,3事例をあげてみたい。

 

(1)EDUTRRAIN(Los Angeles Unified School District)

 当校は1993年6月に開校、‘94年12月学区教育委員会の調査でチャーター取り消しが採択され、翌年の1月全米で閉鎖第1号となった。その反響は大きく、とりわけCS運動の有力な反対勢力であるAFT(全米教員連盟),NEA(アメリカ教育協会)の二大教員組合がこぞってこの学校の閉鎖問題を取り上げて、関係者の注目を集めたのである(注7)

 当校はドロップアウトその他の問題を抱える10代の青年を対象に設立されたが、初年度500人以上の入学者を抱えてしまい、申請者たちの未熟な学校経営で生徒の急増に追いつかず、(a)杜撰な帳簿管理(b)学校財政の失敗(c)不当行為等の理由で更新が認められなかった。学区検査官は申請書類の生徒数と実際の生徒数に相当の開きがあることを指摘し、さらに校長の汚職が発覚し、学区当局は事態を公表したのである。

(2)YOUTHBUILD CHARTER SCHOOL(MA)

 当校は伝統的な公立学校ではうまくやってゆけない生徒(18−24才)を70人集めて、卒業資格をとらせ、職業訓練プログラムの実習を計画し開校に漕ぎ着けた。しかしながら、学校組織の乱れから、正常な教育活動が期待できないとの審査官の判断で、1996年12月教育委員会は休校命令を下した。具体的には、(a)学問的必修教科内容が弱いこと。特定必修教科が抜けている(b)卒業要件を満たさない(c)カリキュラムはマサチュセッツ州カリキュラム基準に達していない(d)カリキュラムが精選され組織化されていない(e)学校のアカデミック教科のアカウンタビリティー及び評価計画が不適切(f)教育方針(strategy)と目標があいまい(g)重大な教育上の障害を持った生徒のニーズに即した教育計画の欠如(h)校内規律(discipline)の指導方針が不明瞭で、理論的根拠に乏しい、といった理由が挙げられた。1997年5月、状況は何ら改善されず、教委はチャーター取消処分を勧告したのである。学校側は新しい組織構造を変革したりして打開しようとしたが問題は依然として改まらず、翌年ついに正式に取り消しを決定した。

 

(3)その他の閉鎖理由

 紙面のスペースに余裕がないので、次に(1)(2)以外の理由を挙げると、

州の校舎建築基準、防火基準に違反(CA)▼定員200名に55人しか集まらず経営不能(A

Z)▼就学者数の水増し発覚(AZ)▼校長が公金使い込み(AZ) ▼学校経営者、学校職員、支援団体の勢力争い(CA)▼年次報告、年間指導計画、学力検査実施不履行、最低限学力到達度目標計画を不履行、個人指導計画不提出等のチャーター記載事項の違反(MN)などである。これらの事例からもわかるように、主な取り消しの理由としては、(1)チャーター契約事項に違反(2)学校運営に失敗(3)教育プログラムの不適切性(4)杜撰な財務管理(5)経営者、教職員の違法行為の5点に集約することが出来る。

 確かに、30校というのは「とるに足らぬ」数字かもしれないが、CS運動に批判的な教員組合はCS批判の格好の論拠に学校閉鎖をアカウンタビリティーの問題として取り上げたのである

 

2,チャーター・スクールにおけるアカウンタビリティーの問題

 

(1) 学校閉鎖が提起した問題

 発展途上にあるCS運動に水を差すような、いささか気が引ける問題提起ではあるが、上述したCSの学校閉鎖が投げかけている教育経営上の問題点は大きい。わずか全体の3%に満たない数字ではあるが、検討すべき問題はあまりにも大きいことに気がつく。

 第一点は、学校を経営する資格なしと認定し、教育行政当局とCS設置申請者との間で交わしたチャーターを破棄する(CSを取り消す)処分のCS法上の根拠である。前述の事例はいずれも明らかな契約(チャーター)違反もしくは法律違反の犯罪が処分の対象となっており、これらの閉鎖は学校経営者自身の教育指導力、経営能力の欠如に起因するといえよう。法的根拠が明白であれば議論の余地はないが、CSを実施する州のほとんどは、生徒の学習成果(パーフォーマンスもしくは「結果(outcome)」)、学校の教育成果(effectiveness)に対する責任(アカウンタビリティー)を学校が負うことを要請しているのである(注8)

学校の「学習成果」や「教育成果」を誰がどう評価し、どう測定するのか。学校経営の評価、その理論的根拠は何かが問われている。

 第二点は、公立学校のアカウンタビリティーとは何かという問題である。とりわけ、父母、生徒が自分の意志で学校を選択し、自立的教師たちが自分たちで教育プログラムを自由に編成し学区当局から権限が委譲されたCSの場合、その責任は、「一体誰が、誰に対してとる責任か」(Who is accountable to whom ?)、「何に対する責任なのか」(What are they accountable for ?)という原理的問題がある。(注9)

CSの財源は私立学校と違って、個人の篤志や民間の教育団体、財団ではなく、国民が納めた税金であり、従ってスポンサーである国民に対する責任であることは明白であるが、既存の学校制度から自立して独自の目標を掲げ、州の評価システムがきわめて流動的な現状では、教育(学習)成果の責任の所在を確定するのは難しい。1970年代初頭に起こったいわゆるアカウンタビリティー運動は、公教育に投入された莫大な公的資金(税金)によって,学校はそれに見合う効果をあげているのかが、国民(納税者)によって連邦、州、地方学区当局が問われたのである。学校経営の権限が全面的に個々の学校に委譲されたCSではどのような責任システムを想定しているのかが問われているのである。AFTは前述の全米第一号の閉鎖校の例を挙げて、父母に対する成果報告書のみならず、メディアによる情報公開の必要性を強調している。AFTの独自のCS評価基準11項目には、1)地域住民に対する責任 2)同一基準を全ての公立学校に適用、3)他の公立学校と同一のテストをCSにも課すことをアカウンタビリティーの原則としている。(注10)

 第3点は、責任の取り方で、学校を閉鎖すればよいのか?自分の意志で選択した生徒や父母はどうなるのか?誰の責任かという問題である。閉鎖したCSの生徒は、上記の場合、他のCSに転校するか元の公立学校に戻ったという。公教育の管理責任を有する地方学区教育委員会が、どれだけサポートしうるかがここで改めて問われなければならない。さらに指摘すれば、認可される時点(入り口)の選考過程における責任の所在もみ落としてはなるまい。例えば、DC(the District of Columbia)のCS教育委員会の認定基準は模範的である。1)全ての生徒に開かれた学習の場になっているか、2)教育の目標、理念(goals /philosophy)が明確で、教職員に浸透しているか、3)学校が指導力に富み、校務運営組織が有効に機能しているか(effective governance structure4)地域のニーズによく適合しているか、父母、地域住民の参加(involvement)を快く迎えているか、5)学校の財務管理、組織管理計画が立てられているか、6)地域の企業、公益団体、連邦政府の出先機関、財団、その他の諸団体との連携が保持されているかというものである。(注11)更新間際の出口の審査以上に、申請時点での厳密な査定こそ,行政当局のアカウンタビリティーを示すものといえよう。

 

 (2)CSの三つの原理

 ここで、CS運動全体の輪郭を明確化するために、CSの特質を次の3点に整理しておきたい。

 第1に、上述したように、CSは、州、地方学区の法令規則による規制や指導を最大限撤廃し、革新的な教育プログラムを教育現場の教師たちが自ら計画し、独自に経営することを認可された公立学校であるということ(自律性の原則)であり、第2に、地域の児童・生徒(以後,「生徒」と総称する)、父母が自由に選択できるもう一つの公立学校(公立オールタナティブ・スクール)であること(学校選択自由の原則)、第3に、住民の税金(公費)で維持される学校である限り、チャーターに掲げられた学校(教師)の教育成果(生徒の学習成果)に責任を持つ学校であること(アカウンタビリティ【accountability】の原則)の三つの原理である。

 第一点については、特色のあるプログラムを誇る私立学校(アメリカの初等、中等学校の全就学者数のおよそ10%を占める)に賦与されている自律性が、公立学校にも適用されたということである。すなわち、生徒の教育費は無償で、学校は公費で運営され、しかも、若干の例外事項を除いて、州や地方教育委員会の法例規則に縛られないで学校経営を展開させることができるのというものである。学校を基礎とした学校経営(School-Based-Management)、いわゆる現場主義管理という経営手法で、1)カリキュラム(教育プログラム)の経営、2)財務管理、3)人事の主要権限を学校に委譲することを意味している。(注12)

 第二点の学校選択自由の原則は、1970年代オールタナティブ教育運動の展開と共にアメリカの教育改革の基本戦略として定着している。生徒の学習ニーズが多様化し、それらに対応して、学校の経営方針や教育プログラムに特色を持たせ、多様な学校が1学区内に複数共存する状況は、特に都市部の学区ではごく当たり前という状況である。ミネソタ州は中でも、教育選択の制度改革では常にアメリカでは先駆的役割を果たした教育改革のパイオニアである。特にハイスクールの生徒(第11,12学年)に、(1)大学の授業を受講する機会を提供したり(POSTSECONDARY  OPTIONS /DUAL ENROLLMENT)(1985年)、(2)学区外の学校に通学出来る制度(OPEN ENROLLMENT)(1987年)で選択範囲を州内全域に拡大し、さらに(3)ドロップアウト等で学習意欲を失った生徒(AT-RISK STUDENTS)が復学し、ハイスクールを卒業できるように特別に計画されたオールタナティブ・プログラムも用意したのである。 (1)の機会拡大は今日半数近い州で法制化され、(2)の学区外学校選択の自由化は1996年3月の時点で14州で制度化されている(注13)

 第三点のアカウンタビリティーの原則こそ、本研究ののテーマであり、CSの中核的理念を構成する。CS推進者、唱道者たちが強調することは、他の公立学校と決定的な相違点は、チャーターに記載された期間内に記載通りに成果を出せなければ学校は閉鎖に追い込まれるという点である。勿論、判定という評価機能は評価の終局であって、学校評価は本来学校改善を目指していることは言うまでもない。

 以上前節では、その実例を検討し、問題点を整理してみたが、次に各州の評価システム(アカウンタビリティー)の実態について、各州のCS法を個別に比較検討しながら概観してみたい。 

 

3.各州のアカウンタビリティー政策の動向 (注14)

 

  (1)チャーターの有効期間

 先ず、チャーターに記載される更新までの期間を検討してみると、アメリカ各州の教育制度の多様性を象徴するように、3年(MNなど8州)から15年(AZ,DC)の認可期間まで実に多岐に渡る。(下表を参照されたい)。NM,TXの2州を除いて、その期間内の実績制の契約(PerformanceBased Contracts)を原則としてその契約期間が明記されている。NMのCS法は実績制契約を特に明記せず、5年間の認可期間を定めているだけである。TXでは逆に期間は各チャーターに記載することとされ認可期間は明記せず、ただし実績制契約とすると規定している。表から明らかなように、多くの場合3年または5年というのが一般的である。       

              表2     チャーター認可機関

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


注 ▼PAの制定当初は毎年再審査が義務づけられていたが、CS法が改正された。

  ▼MOは実際には5〜10年である。

  ▼資料はCERの1999年春の調査(Web-site)をもとにまとめたものである。

 

(2)学習成果に関するアカウンタビリティー−

 周知の通り、実績(PERFORMANCE)に応じた学校評価を実施する場合、共通の評価手法として標準アチーブメントテストが一般的である。学習成果(outcomes/performance)は単に断片的知識の測定だけでは真の評価とはいえないという、伝統的標準テスト批判論が教育界には根強い。様々な代案が試行されてはいるが(しかも、それこそCS運動の課題でもあるが)、結局各州は一様に州独自のアチーブメント(到達度)テストによる学力評価システムを開発しており、CSにも他の公立学校と同様の試験を義務づけているのが現状である。そこで、各州のCS法がアカウンタビリティー強化のために、各州はどんな要件をCSに課しているのかをまとめたのが次の表である。

 

表 3    州標準学力テストの受験要件

 

CSは州のテストの活用           AZ,CA,CT,FL,IL,LA,MA,OH,UT,MS、RI

      が義務づけられる        MI,MN,NH,NM、NC,SC,WI TX,CO、NJ

   他の公立校に義務づけら        DE,DC,NV,PA

   れる評価方法を用いる

   成績評価法をチャーター        AR,CO,GA,KS

   に記載すること                          

   CSを認可した学区当局        AS

   と評価要件を協議する

   評価要件について特に明記せず     HI、WY

AZ,CAの場合共に1998年州の学力テストへの参画を義務づけた。

AZでは州教育委員会が指定するテスト(州が定めた学習到達基準〔outcomes〕に達しているかどうかを測定する)を各学区が採用することとされている・

UTの場合、州が導入しているStanford Achievement Testを採用要件とし、さらに各CSは独自のアカウンタビリティー計画を作成することが義務づけられる。

DCは学区の標準テストに合わせることが要件。尚、特に当局が認定した外部機関による正式な学校評価(accreditation)を受けることが義務づけられている。

HIは州の学習評価基準に縛られるが州の統一テスト(statewide testing system)は免除される。

ILの場合、「州の目標、基準、評価」計画に従うとされている。

LAでは他の公立校と同一の標準学力試験が課されるが、CSの場合、その試験の成績が改善されないとき5年でチャーターが破棄されることが明文化されている。

MIの州評価システムは, Michigan Educational Assessment Program(ミシガン教育評価プログラム)と呼ばれ、CSはこれ以外の公的なテストに代替することができる

NVの場合、特にハイスクールの生徒は州教育委員会が規定する最低限卒業基準に達していることが義務づけられている。

PAでは州テストとチャーターに記載された評価法の二本立て。

RIには州独自の統一テスト( uniform testing program)がある。 

TXには州の統一試験制度があり、生徒の得点は州当局に報告されることになっている。

WIでは州教育目標基準に達する到達度の測定方法について、チャーターに明文化することが義務づけられている。

 

(2)レポーティング・システムに関する各州CS法の比較

 

 学校が当初の計画通り運営され、生徒、父母、地域社会のニーズに合った教育プログラムを提供しているか、生徒の学習成果(アウトカム)、学校(教師)の教育成果はあがっているか、生徒、父母、教育行政担当者はもとより、地域住民もまた、公立学校のスポンサーの一人として知りたい所である。学校情報の公開度の高さを誇るアメリカでは、学校が住民の期待に応えているかどうかについての関心は極めて高く、学校選択機会の拡大と比例するように人々の関心を呼んでいる。各州のCS法を検討してみると、CSの要件として、ほとんどの州で予算管理(財務)報告を含め、当該校の教育計画、その実施結果としての成果(パフォーマンス)についての何らかの様式での報告を義務づけている。CS法導入の34州とDC(千九百九十九/2現在)のうち、報告書の提出先で見ると、州教委が11州、学区教委が12州、チャーター認可当局が9州、生徒の父母に対しては8州、地域住民には2州で報告書提出要件を規定している。下記の表を見ると、単に監査を受けるだけで済ませる州から、学区、州の教育委員会や議会にそれぞれ提出を義務づける州まで、州によって実に多岐に渡っていることがわかる。

 

表 4          各州のレポーティング・システム

会計監査または公立学習成果、   

の監査を受けるのみ

(他の公立校に準ずる)    

IL、NV,WI、VA,ID、
州教育委員会に提出

LA、MA,MN,NC、PA,RI,UT,MO,AR,

AZ,FL

チャーター認可当局に提出 MN、NC,OH、DE、DC、FL
学区教育委員会に提出

AK,LA、NH,NJ,NM.RI,MO,AR,CA、

CT,DE,GA

父母に対する報告 GA,LA,NH、NM,RI,AR,AZ,OH
地域
州教委から州議会に報告
MS、NJ,
DE、GA、LA ,MI,PA、WY,UT,CO、CT,IL
州教委から洲知事に報告 MS、KS、LA,PA,WY、DE,IL
独立の審査期間に委託 MA,PA,TX,IL

 

▼NHの地方教委提出は年4回。年次報告は父母、学区、州各教委に提出。

州のMAの年次報告書には、会計監査報告、学習目標の到達度所見についての記載が義務づけられ、チャーターに盛られた内容よりさらに詳細に記述したアカウンタビリティー契約書(学習成果の目標、及び評価のプロセス)を保管しておき、教育改革調査諮問委員会の権限で、痛くされた第三者の評価を受けることとなる。

NJはCSからカウンティ及び州教育長にも提出が義務づけられる。

NMは年次報告(annual accountability report)を父母、地教委及び州教育局に提出。

NCの場合、UNC(ノースカロライナ大学)も認定機関になっている。州教委が定める統一教育報告書制度に準ずる。

PAのCSは学区教委と州教育長に提出義務があり、州教育長は5年に一回第三者機関に評価を委託し、CSの継続、閉鎖、修復等の措置を決定する。開校した学校は1998年現在0である。

TXには公立学校評価報告制度がある。州教委は第三者機関に学区外選択制のCSの評価を委託する。

WYは開校数0.州教委は3年ごとに州議会に報告する。

OHのCSの報告書は教育プログラム及び会計監査報告である。会計帳簿の保管は当然義務づけられている。

NY(1998年制定)の年次報告には目標到達状況、財務及び父母、生徒の満足度について記載され、報告内容で更新を決定する。転用校は学区教委が認可、新設校はニューヨーク州立大学(SUNY)、州教委(THE BOARD OF REGENT)が認可機関となる。

AKの場合全て学区の自由裁量に任せている。

ARの州教委は2年ごとに議会への報告が義務づけられる。ARは新設校は認めていない。

AZにはSTATE BOARD FOR CHARTER SCHOOLSが州法で設置され、州の認定機関となる。CSは年一回の会計監査を受けることを義務づけられている。

▼CAのCS法は1998年に改正され、不服申し立て機関として州教委が加えられた。1994年以降空白の州評価プログラムが整備され、各CSにも義務づけられる。

COでは、CSの更新の際に学校の目標到達度評価報告を参考に査定される。州教委の議会報告は他の公立学校の生徒 

 の到達度(パフォーマンス)と比較したものでなければならない。

CTの報告書はSCHOOL PROFILEと呼ばれ、年一回提出。

DEのCSの新設校には地方学区、州認可の2種類があり、報告書はそれぞれの認可機関に提出。

DCの場合、認可機関とDC・Financial Responsibility and Management Assistance Authorityに提出。

FLの場合、各CSは州教育長、州議会にも提出する。州教育局は州教委、教育長、州議会に他の公立学校の生徒の学力到達度を比較したレポートを提出する。

HIは州当局のみがスポンサーで、州の学力到達度基準(performance standards)に合致したプログラムが義務づけられる。年一回の報告は各CSの自己評価(Self-Evaluation)に任される。

ILの州議会、州知事への報告内容は、CSと他の公立校の生徒の学力到達度の比較が焦点となる。

 

4、ミネソタ州の場合―事例研究―

 

(1)ミネソタ州を中心とした、CS法の評価規定

 

 ミネソタ州におけるCSの実態や事例については、わが国でもいくつか紹介されており(注15)、広く知られている。MNのCS法(1991制定)は1997年に次のような改正が議会で承認されている。第一に、当初CSの認可数に上限を定めていたがこれを無制限とすること、第二に、CS運動の最大の課題たる財源不足とりわけ開設資金の支援策として、開校後2年間、新設のCSに対し自動的に補助金が支給されるか、生徒一人あたり500ドルの助成を行うこと、第三にCSの認可後援機関(SPONCER)が拡大され、後期中等教育機関のみならず4年生大学、コミュニティーカレッジもスポンサーになれること、第四に校舎の賃貸料の助成等である1999年5月のCS法改正で、開設資金がさらに$300万、賃貸料助成金$600追加された。かくしてMNは、CS法の一応の整備で、CER調査によれば、CSの強さランキングは全米で6位に位置している。

 評価に関するCS法の規定をみると、州の要件は比較的緩やかで、CSの生徒は他の公立学校に課されている州教委が導入している成績基準(Outcomes)を下ってはならないことを義務づけているが、州の標準テスト等による評価は実施していない。AFTレポートによれば,CS法を持つ州全体の17州が州の標準テストを義務づけている。しかしながら、CSの教職員については、カリフォルニア(CA)、アリゾナ(AZ)、フロリダ(FL)など9州は教員免許証が必要とされていないが、MNでは全員に義務づけている。後述するように、教員の資質低下を防ぐという意味で、この問題はアカウンタビリティーとも深く連動しているといえよう。

 CA,AZ等のいくつかの州では、大学その他の民間の研究所と提携または委託して、CSの総合的な実態調査を進めているが、MNでも、州教委はミネソタ大学教育改善応用調査研究センター(Center for Applied Research and Educational Improvement-CREI)に委託して、(1)CS創設のねらい(2)CSの成否(3)CSは生徒の学力改善に役立っているかの3点について詳細な調査を実施している。次にそこで得られたアカウンタビリティーに関するいくつかの知見を検討してみよう。

 

(2)     ミネソタ州チャータースクールの評価

 MNのCS法では、CSの設立目的として、(1)生徒の学習の改善(2)子ども(pupils)の学習機会の拡充(3)多様かつ新しい教授法の奨励(4)学習成果(outcome)の測定、及び多様な、新しい成果測定法の開発(5)学校の説明責任(アカウンタビリティー)の新しい方式の確立(6)学校現場の学習プログラムについての責任(responsible)の持ち方を含む、教師の新たなる専門性開発の機会(professional opportunities)の創出という6項目を主に明確化している。CSに課された使命表明(mission statement)の先駆となったもので、この目標が一定期間内にどれだけ達成されたかがMS評価の「使命」ともいえる。報告書では、結論的にこれらを(一)入学した生徒の学習機会(二)新しい教授法の活用という2点からCSの成功要因(Factors Associated with Charter School Success)を様々なデータから抽出している。CSではどのような教育が展開されているのか垣間見る素材となるとおもわれるので、概要をまとめておきたい。(注16)

(一)  の学習機会拡充についての諸要因

○弾力的時間割編成(FLEXIBLE SCHEDULING

一日の時間割、年間授業時間数の延長、拡大、サマープログラムの実施,,家庭、地域、学校での学習機会拡充 ,一日四時限制による授業時間の拡大

学校内だけでなく地域での多様な学習機会を活用する−たとえば自分のペースで個人的に勉強(作業)するなど

仲間同士の共同学習(PEER-BASED COOPERATIVE LEARNING

社会奉仕、インターンシップ、現場見習い実習(APPRENTICESHIP)、現場コーチ制の夏期ア

 ルバイト

異年齢別グルーピング、多学年制による学級編成

学習を促進する方策として図書館、レクレーション・センター,YMCA等の地域公共機関ヲ授業の場として活用する

 

(二)  の新しい教授法についての諸要因

モンテッソーリ法 ○アフリカ中心の世界観 ○聴覚障害者のための言語文化の指導

自己と他者尊重、学習の大切さ、基本的生活習慣を含む行動規範の作成

組織化された(STRUCTURED)、規律重視の(DISCIPLINED)、援助的(SUPPORTIVE)学校環境の創出、学校規則、懲罰などの教育手段の活用 ○生徒中心の(STUDENT-CENTERED)アプローチ(助言者またはコーチとしての教師の役割)○ミネソタ高校卒業基準に則った最低基準制の活用 ○教師が生徒の学力進度を把握するための、カリキュラムを基礎とする成果測定 ○(CURRICULUM-BASED MEASUREMENT)(一回限りのテストによる学習評価に代わるもしくは敷衍する手法として)○青年前期の特有なニーズにあったアプローチの活用―協働学習、トラッキングの廃止、教師と生徒の親密な人間関係の構築など)○チーム・ティーチングの活用

言語技能、数学、理科、社会科学等の総合的、学際的なテーマ中心のカリキュラム開発○プロジェクト学習(PROJECT-BASED LEARNING)を活用した個別化学習○あまり形式張らない

INFOMAL,弾力的な教室の設定○コンピュータ操作学習−インターネット、コンピュータ・シミュレーション・プログラム、ワープロを利用した学習…・・。

 

 勿論、一般の公立学校でも当然導入され試行されている教授法もあり、その意味で決して新しいとはいえぬかもしれない。大事なことはその学校を選択した子どもの実情、ニーズに即応したカリキュラムを現場の教師が開発したということであり、その実践結果が調査によって全体的に成功(SUCCESS)と認められたということである。CSの教職員、父母の意見を総合すると、結局(1)スタッフ一人あたり生徒数が少なく、学校就学者や1学級の人数が小規模であること(2)教師、父母、生徒間の緊密な協働関係(WORKING RELATIONSHIP)の開発(3)特定の教育方法・教育観を実際に活用していることの三要因に集約される。

 

2,ミネソタ州のアカウンタビリティーの政策

 州や学区教育当局の法例、規則に縛られないといっても、私立学校とは違い、一定の領域の役割はむしろ強化されたと言っても良い。すなわち、CSとCS認可機関(スポンサー)との関係は、一般にサポート(助成、支援、指導、助言)と契約期間内の学校評価という二つの機能が考えられる。後者の場合、教育(学習)の成果を問うアカウンタビリティーの要請に答えるため、(A)教育プログラム及び学校財務帳簿の監査(B)MNのCS法が定める要件や州法が規定する年間授業日数、保健、安全規定、学習障害を持った生徒に関する条項に抵触しないかの審査、そして最も重要な(C)チャーター契約の更新もしくは終結に関する査定といった管理責任が期待されるのである。

 調査では、ほとんどの学校が(調査対象16校中12校)が通学補助を申請し、ランチ・サービス(3校)、保険業務、特殊教育専門スタッフの派遣申請も若干あった。

 これらの行政サービスに対する申請は学校によってまちまちだが、逆に、スポンサーである教育委員会(16校中2校は州教委、残りは学区教委である)による契約更新手続きとして、年度報告の作成送付が例外なく義務づけられている。しかしながら、あるCSでは契約満了時点でスポンサー当局が査定した評価結果報告を当該CSと学区教育委員会に送付提示した場合もあれば、更新間際になっても何の連絡もないというCSもあったという。何らかの監督(OVERSIGHT)や書類審査を経てきちんとCSを評価したのは75%であった。CS側もスポンサー側も試行錯誤とはいえ、この調査は生徒の学習成果の評価が一体どこまで本気になされたかという疑念を抱かせるものとなった。

 

結びにかえて

  

 地方分権制度の導入が、昨今わが国の行政改革の主要課題として論議されている。文部省が指定する研究開発指定校制度を見直し、学校や教員グループなど教育現場の発案を採用し、学校内学校制度、学校選択の自由化を進めようという提案が検討されている。新聞では、「日本版チャータースクール」という表現も見られ、いよいよ正面から検討されつつあるように思われる。

 しかしながら、国や州の大綱的なカリキュラム基準がなかなか徹底しがたいアメリカでは、どんどん増える一方のCSをどう評価し、「良くない学校」をどうサポートし、指導して改善もしくは閉め出すべきかというのが今後一層議論されよう。この場合、CSの特性たる「期限を定めて査定する」という方策は、初めての試みであり、有効なアカウンタビリティー政策であるといえよう。

 本稿で追求してきたCSの評価システムは、基本的には、学校評価(School Evaluation)、もしくはアクレディテーション(Accreditation)の問題であると思う。(注17)CSの登場によって、教育のパフォーマンス(もしくはアウトカム)が必然的に問われることにより、伝統的な学校評価を越えた新しい評価の手法が、州や学区教育当局の最重要政策課題の一つとして模索されているのである。各州、学区当局が新たなアカウンタビリティーの要請に対して今後どう対応していくのか、その推移を追い続けてみたい。

 

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